37歳がんで逝った男の20年後も残る闘病録の重み HTML手打ちでHPに希少がんとの闘いをつづった

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「精巣ガン」コーナーはこのときの日誌が最終更新となっているが、1週間が経って佐栄子さんは「Dear 賢ちゃん」というコーナーを作り、遺族の視点から賢二さんをしのぶ日記や、子どもの成長を伝える日記を書くようになった。

<賢ちゃんが亡くなって今日で1ヶ月です。
私の中ではまだあなたが亡くなったとは思えません。
病院に入院していて、白血球が少ないため外泊許可が出なくて家に帰って来れないだけのようなそんなふうにしか思えないのです。>
(Dear 賢ちゃん/2002年10月7日(月)1ヶ月過ぎて)
賢二さんのお墓。「納骨した後もパソコンのそばにいてくれたら……」との思いからデザインしたという(佐栄子さん提供)

Dear 賢ちゃんは数年間続き、最終更新は2005年7月7日となっている。それ以降のアップデートがない理由は、弟さんとのすり合わせができなくなったためだ。佐栄子さんがHTML文書を手書きして更新するのは難しく、当初から弟さんに文書や画像をメールして更新してもらっていた。しかし、年月が進むと互いに多忙になったこともあり、継続が厳しくなっていったという。

ちょうどその頃、更新が容易なブログがはやりだした。佐栄子さんは2005年から「マザーグースの部屋」(https://plaza.rakuten.co.jp/mothergoose/)というブログを開設し、そこで賢二さんや家族との出来事をつづるようになった。そちらの更新頻度も2007年頃から落ちていったが、それはモチベーションの所為ではなく、発信の場をSNSに移したからだ。現在もFacebookで賢二さんとの思い出をつづっている。

「主人は子どもたちが成長するまでは残してほしい」

一方で、「My School」の役目も終わってはいない。いまも弟さんが管理しているし、佐栄子さんも「主人は子どもたちが成長するまでは残してほしいと言っていました。できれば永年残したいと思っています」という。利用しているhi-hoのホームページサービスが提供を終了する可能性があることは承知しているが、継続できるうちは継続するつもりだ。

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9歳になる前まで父の闘病を見てきた長女は仕送りなしで医学部を卒業して麻酔医となった。4歳になったばかりで父と離れてしまった次女は賢二さんの仕事に強い関心を持ち、今年建築系の大学を卒業した。

「長女は、父のように闘病している人を少しでも助けることができたらという思いが強いようです。次女もホームページから感じるものがあったのか、父の遺志を継いだかのように思います。そんなこともあり、いままでほとんど放置していたホームページも子どもたちに影響を与えているんだと感じています」

2人とも成人して社会に飛び出すところまできた。しかし、成長がそこで止まるわけはないし、同じ病気で悩む人が当事者の声を探すことはいまでもある。My Schoolの役割はまだまだ終わらない。

古田 雄介 フリーランスライター

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ふるた ゆうすけ / Yusuke Furuta

1977年生まれ。元葬儀業のライターで、キャリアは15年。デジタル遺品や死後のインターネットコンテンツの行方などを追っている。著書に『故人サイト』(社会評論社)、『中の人』(KADOKAWA)など。

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