37歳がんで逝った男の20年後も残る闘病録の重み HTML手打ちでHPに希少がんとの闘いをつづった

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<今居るこのクリーンルーム。おそらく、日本を代表するクリーンルームのうちの一部屋でしょう。こんな恐ろしい部屋に居ると、とんでもないことを考えてしまう。今回のこの文章は、クリーンルームが作り出したと言っても過言ではないでしょう。
(略)
人間は死ぬから幸せに生きられる。そう、死ななければいけないのです。しななければ、ネズミ講。地球が滅びてしまいます。
だから、死ぬことは、すばらしいこと。こう書いても、死ぬことはいやですか?
できれば、もう少し長く生きたい。同感です。私も、幼い二人の娘を残して早く死ぬのはいやです。
じゃ、こう考えてみましょう。「私は長生きするから、あなたはその分早く死んでね。」バランスをとるために、一方を上げれば、一方は下げる必要があります。
さっきのことば、あなたは言えますか? とてもそんなこと、言えません。
むしろ、逆でしょう。あなたが少しでも長生きできるなら、私は命を捧げます。自分の子供が、人質にされわれたら、私はきっと犯人にこういうでしょう。子供を助けてください。そのかわり、私が人質でもなんでもします。
そう考えると、長生きしたいと思うことは、決していいことではないのです。他人を引きずり落としてでも 、長生きしたいですか? わからなくなってきました。
私は、ガン患者。人よりも早く死ぬのです。でも、死ぬのは全然怖くありません。長生きしても幸せにならとは限らないのです。
きっと、「神様」とみんなが言っているそんな大きなものがこの世には存在しているのでしょう。その神様が、この人は、いつ生まれて、いつ死ぬか決めているのでしょう。運命。ガンになったのもそれは、その人の運命なのです。>
(精巣ガン/病歴/ガンと共に生きる)

自分が草分けになるとの意思

命の限りがあるのは世の道理であり、長短は運命でしかない。

賢二さんは後に実家の宗派に則った仏式葬儀で送られているが、残された文章を読み返す限りは宗教的な思想にあまり関心を持っていない。おそらくはクリーンルームのなかで自分と向き合い、自らの経験に基づいて、自分なりの命のバランス論や運命論を導き出したのだろう。

納得できれば、あとは実直にコツコツと事を進めるのが賢二さんだ。もう死は恐れない。運命を恨まない。少なくとも、それらのことには言及しない。

やるべきことは、自分のために「病歴などの整理」をし、「応援してくださるみなさんへの報告」を兼ね、「他の患者さんたちの参考」になるようなホームページを作ることだ。最初に告知を受けたときは10万人に1人が罹るがんだと言われた。同じ病気の患者の声は当時のインターネットでは見つけられなかった。それなら自分が草分けとなればいい――。

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