急拡大するウクライナ避難民の支援で重要なこと 小俣直彦・オックスフォード大学准教授に聞く

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欧州の人にとっては隣人という意識があり、シンパシーを持って対応しているように見える。寄付も多い。受け入れ国のポーランドなども手厚い支援を行っている。ただし、交戦が長引いて、難民の数が増加を続け、一時的な保護、緊急支援だけで終わらず、難民に対して自国に受け入れて、かつ長期的な視点で彼らの生計を援助していくとなるとどうか。そこは、欧州にとって新たな試練になると思う。

今回の件では、権力が集中していることの怖さ、独裁国家の怖さをあらためて実感した。もちろん、アフリカでも独裁的な国家はたくさんあるが、ロシアは大国であり資源分野など世界に影響力が大きい。そうした状況では、国連やNATO(北大西洋条約機構)といった体制が直接的に紛争を停止させるには手段が乏しく、兵糧攻め以外のことができないということも実感した。が、兵糧攻めでは弱者にしわ寄せが来る。一方でゼレンスキー大統領がNATOを批判する気持ちも心情としてはわかる。

各国のリーダーは長期的視野で

――日本の岸田首相もウクライナからの避難民の受け入れを表明し、3月8日に8人の方が日本入りしました。ただ、日本は過去に難民受け入れに積極的ではなかったことが気になります。

日本の難民や移民受け入れの消極性、不法就労者への酷い扱いの問題は隠しようもない。ただ、それでも今回、ウクライナ難民の受け入れを表明したのはいいことだ。ウクライナの人々にとっての選択肢をできるだけ多く用意するべきだ。

――一刻も早い停戦を、ということですが、内戦が続く地域に比べれば、いったん停戦したら国に戻ることは可能になるとみていますか。

内戦の場合は、帰ったらかつての敵と暮らさなければならないということもあり、それが妨げになることがある。その問題がない分、帰国しやすいかもしれない。ただ、復興には人的社会的資源、いわば国力といったものが影響する。復興のための資金支援を受ければ自分で立て直せるのか、かなり長期に外部の支援を必要とするのか。また、当然、地域の破壊の度合いや個人の状況にもより、現実には帰れる人と帰りたくとも帰れない人が出てくるだろう。

人道支援の時には人々の関心が高まり、お金や物資、人も集まりやすい。しかし、紛争が終わったあとも国際社会がウクライナのことに関心を持ち続け、長期的な視野で復興支援を続けられるかというと、なかなかそうではないだろう。そこまで国際社会のリーダーは考えておく必要がある。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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