「福島原発事故の検証」がコロナ禍こそ重要な理由 事故10年検証が問う危機管理体制のあり方
幣原は、「我敗戦の原因何処に在るかは今後新日本の建設に欠くべからざる資料を供するものなり」という強い信念を持って戦争調査会を進めた。しかし、最終的には、戦争調査会の委員に旧軍人が入っているという事実をソ連やイギリスが問題視し、GHQのマッカーサー元帥の意向により、戦争調査会は廃止となってしまった。
幣原は、「戦争のことを調査するのに軍人を皆抜いてしまってやれば、どんな調査や結果ができるかね」と憤慨したという。事態対処に従事した当事者、すなわち検証される側の対象者であっても、事態対処当時の立場と状況を知り、検証のために必要な専門的知見を持つ者には、積極的に調査に協力してもらう必要があるということだろう。
結果的に、日本政府と日本国民は、自らの手で主体的に戦争を総括し、そこに至った原因を公式に追究する機会を失い、戦争原因や戦時中のさまざまな対応について、多くの異なる見解が並立する事態になっている。
この戦争調査会の経緯について詳細を記した『戦争調査会 幻の政府文書を読み解く』(講談社現代新書)の著者である政治学者の井上寿一氏は、例えば戦争責任の問題について「近隣諸国が問題を出す。日本が反応する。今度は近隣諸国が別の問題を出す。日本が反応する。このような外交の往復運動は永久につづく」と述べている。
何がよくて何が悪かったのか公式見解が判然としないがために情緒的な議論が繰り返されるという事態を避け、未来に向けた建設的な議論を行うためにも、主体的な危機対応の総括が必要であることを物語っている。
3つの事態から得られる教訓
まとめると、福島原発事故・新型インフルエンザ・大東亜戦争の3つの検証に関する経緯から得られる教訓は、以下の3点ではなかろうか。
・公正中立を期しつつも、危機対応に従事した者の視点を入れて検証すること
・危機対応の成否を総括し、よかった点・悪かった点を明らかにすること
・改革提言を実現し、同じ事態を繰り返さないこと(「いつものパターン」に陥らないこと)
東日本大震災・福島原発事故に続く国家的危機は、新型コロナ危機である。
現在のところ、新型コロナ危機について政府が進める検証作業の全容と進捗は、公的には明らかになっていない。しかし、次なる危機の際にはより多くの国民を救うべく、日本の危機管理体制を強化するためにも、2年以上にわたる政府の危機対応の細目を客観的に評価する必要がある。「いつものパターン」に陥らないことが重要だ。
全世界と日本全土に大きな混乱をもたらした新型コロナ危機への対応に関する政府の検証と改革がどのようなものになるのか。
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