「福島原発事故の検証」がコロナ禍こそ重要な理由 事故10年検証が問う危機管理体制のあり方

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特に、危機管理の責任主体である政府や、行政監視の役目を負っている国会においてそのような取り組みを期待したいところである。そういう観点では、提言内容について10年後の達成状況をフォローアップした冒頭の福島原発事故10年検証委員会(民間事故調)は、注目すべき取り組みだと言えよう。

検証し、改革し、次なる危機が到来した際には、同じ過ちを繰り返さないことが重要だ。しかし、福島原発事故で検証し、改革が検討されたものの手付かずとなり、10年後の新型コロナ危機で再び繰り返されている議論がある。それは、「国の危機管理体制のあり方」だ。

危機管理体制の抜本的見直しを目指した

福島原発事故を受けて設置された国会事故調は、2012年7月に公表した報告書で、「政府の危機管理体制の抜本的な見直しを行う。緊急時に対応できる執行力ある体制づくり、指揮命令系統の一本化を制度的に確立する」と提言している。

また、2014年8月には、自民党・公明党の「東日本大震災復興加速化のための第4次提言」で、「国・地方、さらには民間を含め、現場の救助・復旧面や行政面での人員を機動的に動員、指揮命令できる(中略)『緊急事態管理庁(仮称)』等の設置を至急検討」と提言された。

さらに同月、政府は、原子力規制委員会設置法の規定を根拠として、「政府の危機管理組織の在り方に係る関係副大臣会合」を設置した。同規定は、以下のように述べている。

政府は、東日本大震災により甚大な被害が生じたことを踏まえ、原子力災害を含む大規模災害へのより機動的かつ効果的な対処が可能となるよう、大規模災害への対処に当たる政府の組織の在り方について抜本的な見直しを行い、その結果に基づき必要な措置を講ずるものとする。

そこで、同会合は、アメリカのFEMA(連邦緊急事態管理庁)を参考に、さまざまな種類の危機に対して省庁横断的な対応を実行するための司令塔機能を検討した。

しかし、危機管理のための新しい組織を作るとかえって混乱するおそれがある、所管事項が広くなり好ましくない、初動時のみ一元的に対応を行った上で段階的に各担当府省庁に対応を委ねる現在のシステムは一定の合理性があるといった議論が浮上。結果的に、危機管理体制を強化するための組織体制の見直しは見送られた。

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