消費増税1年半延期に潜む「空手形リスク」 安倍首相の決断のあやうさ
政府は基礎的財政収支(PB)の赤字を15年度に半減させ、20年度には黒字化させることを目標とし、国際社会にも達成を約束してきた。消費税率の10%への引き上げを延期すれば、財政再建の道筋に狂いが生じるのは必至だ。
政府筋によると、15年度の半減目標は達成できるものの、消費税率を予定通り10%に引き上げ名目3%成長を実現しても、20年度には11兆円の赤字が残る試算だ。増税を先送りすれば黒字化目標の達成はさらに遠のく。
しかし、安倍首相は「財政再建の旗を降ろすことは決してない」と繰り返し、「2020年度の財政健全化目標も堅持していく」と歳出・歳入両面の取り組みを強調した。
それでも、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)が行った「長期推計」によると、向こう50年程度の財政の持続可能性を確保するために必要な収支改善規模は、GDP比11.94%─8.20%、消費税率で換算すると24%─16%にのぼる。社会保障制度の持続可能性を確保するには、消費税率10%どころか、将来20%程度は不可欠になってくるとの試算だ。道のりは遠い。
軽減税率導入では公明党に配慮
一方で、首相は、公明党が低所得者対策として最優先課題とする「生活必需品への軽減税率」の導入について、「自民・公明両党間でしっかり検討させていきたい」と語り、後押しした。
軽減税率の導入時期をめぐっては、昨年の税制改正大綱では「税率10%時に導入する」との玉虫色の決着でしのぎ、「10%への引き上げ時と同時」を主張する公明党に対し、自民党や財務省は10%に引き上げた後のいずれかの時期を想定し、平行線が続いている。消費税率引き上げの先送りが決まり、公明党が選挙戦で主張しやすいギリギリのラインで「検討」を打ち出した。
専門家の間でも、軽減税率導入には否定的な声も聞かれる。大田弘子・政策研究大学院大学教授は、軽減税率は高所得者にも適用されコストがかかるほか、線引きが難しく、導入すれば「相当の禍根を残す」と警告する。消費税率引き上げの先送りで、拙速な結論を出すことは回避できたようだ。
3党合意は棚上げ、再増税実現に暗雲
消費税率引き上げは、高齢化で膨張する社会保障関係費を国民全体で負担し、民主、自民、公明の3党が与野党の枠を超えて2012年に合意した。安倍政権の先送り議論を受けて、民主党も14日には、増税先送りを容認。3党合意は事実上棚上げされ、社会保障・税一体改革を積極的に主導する政党が見当たらない。
2年前の11月。野田佳彦首相(当時)は党首討論で、安倍晋三自民党総裁に、消費増税を実現するため、身を切る改革として議員定数の削減を迫り、安倍氏の同意を取り付けたうえで2日後に衆院を解散した。しかし、定数削減は進まず衆院の定数は5つ減っただけ。野田氏は「見事な約束違反だ。強い憤りを覚える」と批判した。
寺島実郎・日本総合研究所理事長は民放テレビで、定数削減の課題も含め約束したこともやれないとして「自堕落な政治」と糾弾。与謝野馨・元衆院議員(元官房長官)は10月30日のロイターのインタビューで、高齢化に伴う社会保障経費増大の現実を直視すれば「消費税率は20%までいかないと、財政にはほとんど貢献しない」とくぎを刺し、先送りすれば、財政破たんへの道を歩み始めることになると警告。不人気な再増税を説得するのは、政治家の役割だと政治の強い意思を求めた。
(吉川裕子 編集:田巻一彦)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら