消費増税1年半延期に潜む「空手形リスク」 安倍首相の決断のあやうさ

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安倍首相は消費税引き上げの延期と同時に、21日の衆院解散・総選挙を表明し、自らの判断の信を問う決意を示した。

勝敗ラインについて、安倍首相は「自公で過半数を得られなければ、アベノミクスが否定されたということになる」とし、その時は「私は退陣する」と、退路をたって選挙戦に臨む考えを明言した。

もっとも、この「解散シナリオ」には、隠された意図があると与党関係者は解説する。増税を先送りした場合の党内亀裂を未然に防ぎ、求心力の低下を避けるにはどうするか━━。

増税先送りを決めた後、直ちに解散を宣言すれば、党内の増税派も首相を強く批判することはできない。そこで次第に、再増税先送りと衆院解散を絡める戦術が浮上。10月下旬には「(増税の)時期を先に延ばすだけでは、政治的にリスクがある。それを避けるには、選挙だな」と、解散総選挙のシナリオが固まっていった。

与党内の増税推進派を封じ込め、野党に対しては、選挙態勢の余裕を与えない急展開で迫る。「ここで勝っておけば、しばらく支持率のことは気にしないでやるべき仕事に集中できる」と、ある政府高官は「ベストのタイミング」との見方を示し、首相の本音を代弁した。

「先送り」が繰り返されるリスク

予定されていた消費税率引き上げの先送りを決定し、財政の信任を崩さない配慮をしながらも、有識者の視線は厳しい。

首相は先送り時期を明言し「景気弾力条項」を外すことで、「3年後には必ず上げる」と、2度先送りすることはない「証」と胸をはった。

しかし、点検会合に出席したSMBC日興証券の末澤豪謙・金融財政アナリストは「先送りが繰り返されるリスクはあり得る」とし、吉川洋・東大教授も「景気は一進一退だが、この程度の一進一退は将来いくらでもある。これで先延ばしするのであれば、将来、意思決定はいつも難しくなる」と再々延期のリスクを警告した。

大和総研の熊谷亮丸・チーフエコノミストも、「景気条項はリーマンショックのような大きなショックが前提で、この程度の低迷が前提ではない」と、景気の現状は景気条項の規定に該当しないとみる。

17年4月に先送りした場合も、財政政策と金融政策が同時に引締めに入る可能性や、中国経済のバブル崩壊のリスクを懸念。増税のタイミングとしては最悪で、先送りを繰り返すリスクは否定できないとみる。

景気弾力条項の廃止は、「増税推進派を説得するためのカード」(政府筋)として用意されたが、再増税実施が確実に担保されるかは不透明だ。

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