帝国ホテルが老舗の印象覆す"攻め"を今始めた訳 コロナ禍で真価が問われる「らしさ」とは?

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それを体現する施策の1つが、昨年2月にスタートしたのが「サービスアパートメント」だ。帝国ホテルに長期滞在するプログラムで、5泊で15万~100万円、30泊で36万~210万円、ルームサービスやランドリーサービスのサブスクリプションサービスも用意してある。

「あの帝国ホテルが」という驚きとともに受け止められて話題を呼んだ。私も「この価格ならトライしてみたい」と思ったが、同時に「帝国ホテルは困っているのでは?」といぶかしむ気持ちが働いた。もっと言えば、せっかくのブランドを少し安売りしているのではと懸念したのである。

そこで「『帝国ホテルたるものが~』というクレームはなかったのですか」と、定保さんに突っ込んだところ、この価格は、ほかのサービスアパートメントの内容と料金を調べ、それに基づいたものとわかった。

「私も最初に価格設定を聞いたとき、もっと上げたほうがいいと“昭和的な発言”をしてしまい(笑)、少しだけ上げてもらったのですが、価格設定としてはそれなりの妥当性のあるもの。いろいろな方から「定保さん、これは安いよ」と言われましたが、それ以上のお叱りにいたらないので、販売開始後にこれでよかったのだと思いました」(定保さん)。

即日完売でタワー館をすべてサービスアパートメントへ

用意した100室は即日完売した。

「2月12日からタワー館の全349室をサービスアパートメントにしました。本館は客室、タワー館はサービスアパートメントとして、トータルでコロナ前の水準にもどしていこうと考えています」(定保さん)

手応えがあったのは、時流をとらえた企画だったから――誰もやっていないことを、タイムリーに提案した効果は大きかった。“帝国ホテルに住む”ことへのあこがれを誘ったし、「保守的で新しいことをやるのが苦手」という老舗のイメージを覆す方向に働いた。「あの帝国ホテルが動き出した」と耳目を集めたのだ。

企業のブランド力とは、何か危機が起こり、潮目が変わるときに本質が露わになって磨かれるのではないか。定保さんに聞いたところ、過去にも転機があったという。「関東大震災のとき、周辺の建物が倒壊消失した中、ここは耐え抜いたのです」。部屋を無償で解放し、炊き出しを行うなど、困っている人たちを支えたという。

東日本大震災のときも同様だった。帰れなくなった人のため、ロビーを開放したり、毛布や飲料などを提供したりしたのだ。それも、上から指示が出たからやるというのではなく、経営陣と現場が一体となり、当たり前のようにやっていく。きれいごとと映るかもしれないがそうではない。

私は東日本大震災の直後、渋谷から銀座まで歩かねばならず、途上で帝国ホテルに立ち寄って一休みさせてもらった。その際、ホテルの人たちが、静かな温かみをもって接してくれたのは、濃い記憶となって残っている。

こういう行為を支える「らしさ」のルーツはどこにあるのか。「『最も優れたサービスと商品を提供することにより、国際社会の発展と人々の豊かでゆとりある生活と文化の向上に貢献する』という、帝国ホテルの信念から来ていると思うのです」と定保さんは言う。

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