ドッキリ番組の赤外線カメラ映像が白黒になる訳 テクノロジーのベースにある物理学の楽しみ方

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人間が見られる波長である380〜770nmの「可視光線」には、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫などの名前が付いており、それぞれの波長に対応した色が「見える」のです。

ところが、波長が300nm前後の紫外線は、人間の持つ錐体細胞では感受できません。つまり、波長が短すぎて「見えない」のです。

逆に、波長が可視光線の範囲(380〜770nm)よりも大きな赤外線や電波は、波長が長すぎて「見えない」ことになります。ですから、紫外線や赤外線、電波に対応する色の名前というのは存在しません。

通常のビデオカメラは、物体そのものが発する可視光線や、物体が反射した可視光線を感受しています。どのみち映像を見るのは人間ですから、可視光線だけを感受できれば十分というわけです。

一方、監視用などの赤外線カメラは、人間が見えない光である赤外線を感受するためにつくられた装置です。熱を持つ物体は必ず赤外線を発しており、一般的に温度が高いと強い赤外線を、温度が低いと弱い赤外線を発しています。

この人間が見えない赤外線の強弱を感受して映像化しているのが赤外線カメラです。

ここまでの説明で、冒頭の疑問「なぜ、赤外線カメラは色の濃淡でしか撮影できないのか?」の答えは、得られたでしょう。

そもそも人間が見ることのできない赤外線を、機材を使って感受しているのが赤外線カメラですから、赤外線に対応する彩りなど、そもそも存在しないのです。

赤外線を映像にする

赤外線カメラの内部には、図1のように、「画素」と呼ばれるたくさんの正方形の小さな要素からなるセンサーが入っています。

(出所:『一生モノの物理学 文系でもわかるビジネスに効く教養』)
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画素は、受けた赤外線の強さに応じた量の電子を発生させる素材でできています。

センサーが赤外線を感受すると、赤外線の強さの分布に応じて、それぞれの画素に生じた電子の分布が現われます。

赤外線カメラは、この電子の分布にあわせて、図2のように、電子の量が多い(つまり強く赤外線が照射された)画素を白っぽく(淡く)表示し、電子の量が少ない(つまり弱く赤外線が照射された)画素を黒っぽく(濃く)表示して画像にするのです。

以上のように、人間は装置を用いることで肉眼では見えない色の光、つまり可視光の範囲外の光でさえも感受・観察できるようになったのです。

鎌田 浩毅 京都大学名誉教授・同レジリエンス実践ユニット特任教授

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かまた・ひろき / Hiroki Kamata

1955年東京生まれ。東京大学理学部卒業。通産省主任研究官、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を経て、現在京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・同名誉教授。専門は火山学、地球科学、科学教育。著書は『100年無敵の勉強法』(ちくまQブックス)、『理系的アタマの使い方』(PHP 文庫)、『新版 一生モノの勉強法』(ちくま文庫)、『火山噴火』(岩波新書)、『地球の歴史』(中公新書)、『一生モノの英語勉強法』(吉田明宏氏との共著、祥伝社新書)などのほか、研伸館との共著に『一生モノの受験活用術』(祥伝社新書)がある。YouTube「京都大学オープンコースウェア」で『京都大学最終講義』動画を公開中。

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米田 誠 大学受験予備校「研伸館」講師

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よねだ まこと / Makoto Yoneda

1977年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学大学院修了(修士[工学])。三菱重工業株式会社での設計業務を経て、現在関西の大学受験予備校「研伸館」にて物理の学習指導に携わる。東大・京大をはじめ、難関大学志望の高校生や灘中・灘高の学校準拠クラスを指導するなど、幅広いレベル・学年の講座を担当。イメージに頼らず、基礎から体系的に知識・論理的思考力を構築していく指導をモットーとする。YouTube「研伸館オンライン」チャンネルにて、『物理のワンポイント講義』動画を現在公開中。鎌田浩毅・研伸館共著の『一生モノの受験活用術』(祥伝社新書)にて物理の記事を執筆。

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