「冷戦中、ソ連は偽情報操作を組み立てラインの工程に変貌させた。一説には、KGBと関連機関は1万を超える偽情報作戦を実施した、ともされる。これらの作戦は、西側における政治的分裂を増大させようとする偽装団体やメディア拠点を作ることから、作り話や陰謀論を広めてソ連の敵の信用を落とすことまで、広範囲におよんだ」と述べた(『「いいね!」戦争 兵器化するソーシャルメディア』小林由香利訳、NHK出版)。
ウクライナ情勢に絡んだものでは2014年に起こったマレーシア航空17便撃墜事件が有名だ。
ウクライナ東部の親ロシア派支配地域上空でミサイルによって撃墜され、乗客乗員298人全員が死亡した。実は昨年12月にようやくオランダの裁判所において、検察側がロシアの元情報機関員ら4人に殺人などの容疑で終身刑を求刑したばかり。ロシアは事件当初から現在に至るまで関与を否定していたが、2019年にオランダを中心とする国際合同捜査チームの調べで、撃墜に関わったウクライナ東部の分離指導者に対し、ロシア政府による指示があったと結論付けた経緯がある。
コロナ禍でも偽情報を故意に流した
イギリスのブレグジットやアメリカ大統領選(2016年、2020年)における他国の干渉、偽情報の分析などに携わってきた政治アドバイザーのニーナ・シックは、2017年のイギリス下院の情報安全保障委員会が行った報告を振り返り、「この発表で特に衝撃的だったのは、ロシア政府がソーシャルメディアをはじめとする新しいコミュニケーションツールをフル活用して、独自の筋書きを拡散したことだ」と述懐している(『ディープフェイク ニセ情報の拡散者たち』片山美佳子訳、日経ナショナル ジオグラフィック)。ロシアの国営メディアであるロシア・トゥデイ(RT)がYouTubeチャンネルで、マレーシア航空とウクライナ紛争についてロシア側の主張を一方的に垂れ流していたからである。
シックは、2015~2016年の欧州の移民危機でも、ロシアがシリアで展開した無差別爆撃により大量の難民・移民を作り出し、戸惑う市民の不安や緊張に付け込んで情報操作に勤しんでいた点を重くみる。
これら一連の流れを見ると、2020年以降の新型コロナウイルスのパンデミックにおいても、単純に既定路線が引き継がれていただけだと考えることができる。コロナワクチンに対する恐怖を煽るディスインフォメーション(故意に流される偽の情報)がそれだ。昨年4月に欧州連合(EU)が公表した報告書によれば、ロシアと中国のメディアが西側諸国の開発したコロナワクチンを標的に、大量の偽情報を流布するキャンペーンが激化したとしている(EEAS SPECIAL REPORT UPDATE: Short Assessment of Narratives and Disinformation Around the COVID-19 Pandemic(UPDATE DECEMBER 2020 - APRIL 2021)- EU vs DISINFORMATION)。
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