長髪で髭面の孝雄さんは、俳優の岸谷五朗のような男っぽい風貌である。世間体的なハンディキャップといっても犯罪歴があるわけではない。教員時代の1度目の結婚では相手が職場の男性教員とダブル不倫。田舎町では大騒ぎになり、孝雄さんは「勉強ができるだけで問題解決能力がない」学校教員たちに愛想がつきて自営業を始める一因ともなった。
2度目はボランティア活動で知り合った看護師の女性と結婚。夫婦仲も円満で長女を授かるが相手が脳梗塞で倒れてしまう。入院中に病状が悪化して、自分のことも娘のこともわからなくなっていく妻。すると、彼女に多額の保険金をかけていた義理の両親が連れていってしまい、孝雄さんは半強制的に離婚させられた。またしても田舎の大事件である。深く傷ついた孝雄さんが結婚に慎重になるのも無理はない。
地元に早々に見切りをつけて
明代さんのほうは、「高校までしか学校がない」地元に早々に見切りをつけて、大阪で一人暮らしをしていた。がんばった結果がすぐにわかり顧客からも喜んでもらえる美容師は天職だと感じ、まさに朝から晩まで働いていたと振り返る。
「朝から働いて、営業時間が終わってからカットなどの練習をします。後輩の教育もしなければなりません。家に帰るのは毎晩12時過ぎでした」
そんな日々の中でも長く付き合った恋人がいた。同い年の同僚だった。家族ぐるみの付き合いもしていたが、お互いに店長を任されて忙しく働き、結婚するタイミングをはかりかねていた。若い明代さんには不満もあった。10年も付き合っているうちに「夜の営み」がほとんどなくなっていたことだ。
「まだ20代だったので、結婚したら改善してほしいと正直に伝えました。でも、彼にとっては改善できない部分だったようです」
別れ以上にショックだったことがある。明代さんと別れてわずか半年後、彼は出入り業者である12歳年上の女性と結婚したのだ。グループスタッフのほぼ全員が結婚式に呼ばれたが、古株の明代さんだけは招待されなかった。当然と言えば当然だが、明代さんのプライドが傷ついたことは確かだ。
その頃、地元で美容室を営んでいる母親が重い更年期で体調を崩した。今は父親が支えているが、将来はどうなるかわからない。長女である明代さんは地元に戻り、親と一緒に働くことを決意する。ちょうど30歳になっていた。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら