ドラッカー・ディファレンス クレアモントの授業 クレイグ・L・ピアース/ジョゼフ・A・マチャレロ/山脇秀樹編 上田惇生/小林 薫/藤島秀記 ほか訳~今日の混迷を読み解き明日への指針を示す
いま私たちが目にしている風景に関して本書は次のように言う。「市場は善悪の観念には中立である。巨大なる善も巨大なる悪ももたらしうる。倫理的な視点を持たない経営幹部たちが、部下、顧客、公益に配慮することは期待すべくもない。とくに、部下の成長をはかることなどありえない」と。
リーマンショックから2年が過ぎたが、たしかに世界の景色は一変している。「金融機関と規制当局への不信はピークに達して」おり「職業としてのマネジメントさえ地に堕ちた」と本書は付け加えている。
企業の「目的」と「存在理由」はなんだろう。言うまでもなく、ドラッカーは企業目的を「顧客の創造」だと答
えている。したがって組織の存在理由は「株主価値の最大化ではなく、顧客価値の最大化」にあるのであって、「これこそが成果への鍵」なのだ。
すでに1997年に、ドラッカーは企業幹部の報酬の巨額化に警鐘を鳴らしていたという。「次の景気後退時には、巨額の報酬を手にする大企業のトップに対する反感と軽蔑の念が爆発するに違いない」と。世界中の政府による、巨額の景気対策により、かろうじて維持されている経済なのに、自分の手柄かのようにボーナスを手にする「強欲」は不滅のように見える。しかし絶望が答えではない。
「凡庸に満足せず、卓越した『違い』を築いてほしい」という願いから、クレアモントのドラッカー・スクールの教授陣の講義をまとめた本書は、ドラッカーが残した「膨大な知の遺産」にもとづいて、実に手際よく、今日の混迷を読み解き、明日への指針を示している。
ドラッカーを研究対象としてとらえつつ、MBAとは異なった「知の世界」を背景とする経営への、最良の手引書である。
東洋経済新報社 1890円 221ページ
Craig L. Pearce
米クレアモント大学院大学ピーター・F・ドラッカー&マサトシ・イトウ・スクール教授。
Joseph A. Maciariello
米クレアモント大学院大学ピーター・F・ドラッカー&マサトシ・イトウ・スクール教授。
やまわき・ひでき
米クレアモント大学院大学ピーター・F・ドラッカー&マサトシ・イトウ・スクール教授。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら