タカタ、深刻化するエアバッグ問題の行方 リコール拡大なら苦境に
米当局の声明などを受けて、タカタは2015年3月期の第1・四半期(4─6月期)決算に特別損失として計上した製品保証引当金約450億円に、ほぼ織り込んでいると発表。トヨタの追加リコール分などに対応した「新たな費用発生はごく一部」との見解を示している。
複数の関係者によると、追加費用は今のところ20―30億円程度。同社は昨年4月のリコールを踏まえて13年3月期にも約300億円計上しており、直ちに業績に大きくは響かない。6月末時点の自己資本比率は30%で、純資産は1347億円、現預金も922億円などとなっており、特段の心配はないとみられている。
しかし、リコールが全米に広がる事態となれば、今の見通しを大幅に上回って費用が拡大する可能性が出てくる。ロイターの調べでは、全米に広がった場合は約530万台が追加される見込みで、約430万台以上が対象となっている調査リコールを合わせると、960万台に膨らむ。
野村証券・クレジットアナリスト、新村進太郎氏の試算では、全米にリコール対象が拡大した場合の台数は約2000万台超で、その追加費用を1000億円超と見込んでいる。また、当初の地域設定が不十分だったなどの批判に発展し、米司法省が過熱する世論に押されてタカタの対応不備などを訴追する可能性がある、と懸念する。
訴訟やリコール費用の支払いは数年にわたるとみられ、ダメージが一気に押し寄せるわけではない。だが、2009年から10年にかけて米国で起きたトヨタの大規模リコール問題では、自動車メーカーが米政府に支払う額としては過去最高となる12億ドル(約1200億円)の和解金支払いが今年3月、トヨタに命じられた。タカタも全米でのリコールとなれば、新村氏は「同等の支払いが要求される可能性も否定できない」と指摘している。
タカタがインフレ―ターに使用している火薬剤の硝酸アンモニウムは高湿度の下で不安定になり、爆発時に過剰な力が生じる特性がある。これまでは期間を区切り、製造工程や管理上の不備、誤った部品の組み付けなどの理由によるリコールが中心だったが、調査リコールの結果によっては、硝酸アンモニウムが使用禁止になるケースも想定され、リコールがさらに拡大するおそれもある。
タカタの広報担当者は「今の事態を真摯(しんし)に受け止め、調査や部品交換などで自動車メーカーやNHTSAに全面的に協力していく」と述べている。
中長期的に受注減少も
タカタは自動車安全部品で最大手・スウェーデンのオートリブ<ALV.N>、米TRWオートモティブ<TRW.N>と並ぶ世界3強の一角を占めており、世界中の自動車メーカーと取引がある。エアバッグ、インフレ―ターの供給が止まるような事態に陥れば、自動車の生産に大きな影響を及ぼしかねない。
一般的に、部品は不測の事態に備えて、複数のサプライヤーから調達する。エアバッグは自動車の剛性などにより仕様が異なり、車の開発段階から自動車メーカーと綿密に打ち合わせながら製造する。インフレ―ターだけを他社製に変えることはできるが、エアバッグを他社製にすぐ置き換えるのは難しく、他社も直ちに生産能力を拡大できるとは限らない。
とはいえ、5―6年先の自動車の全面改良のタイミングなどで取引量を減らされる可能性は否定できない。クレディ・スイス証券の秋田昌洋アナリストも「中長期的にタカタのインフレーターのシェアが落ちる可能性がある」と指摘する。
今回500万台以上のリコールを実施しているタカタの最大顧客であるホンダは、タカタとの取引について「品質と供給の面から再検証している」(広報)という。また、関係者によれば、ホンダはすでに数年前から一部のタカタ製エアバッグ内にダイセル<4202.T>製のインフレ―ターを使い始めている。
トヨタ、日産自動車<7201.T>は、タカタとの今後の取引についてコメントを控えている。ただ、かつて自社のリコール問題発生後、北米の品質管理責任者を務めた経験を持つトヨタのスティーブ・セント・アンジェロ中南米地域担当部長は、一般的なサプライヤーとの関係について、「いったん供給を受け始めると家族の一員のようになる」とし、苦境に陥った部品メーカーに対しては「あらゆる手段を通してまず支援する」と述べている。
(白木真紀 取材協力:久保田洋子 編集:田巻一彦)
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