アメリカ経済の低迷がこれからも続く理由--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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 G20は現在、「財政赤字の増大を徐々に安定化させ、16年までに国民所得の伸びと一致する水準にまで下げる」という政策目標を掲げている。この目標は、失業という厳しい代価を払うにしても、長期的な金融危機と短期的な景気刺激のバランスを取る合理的な政策である。

アメリカの財政政策には限界があるが、金融政策の余地は多く残されている。バーナンキFRB(連邦準備制度理事会)議長は、8月末にワイオミング州ジャクソンホールで開かれた国際会議での演説の中で、その詳細を述べている。その要点は、金融市場が機能マヒに陥っている中で、FRBは財務省証券もしくは民間債券の購入を増やし、流動性を供給することができるということだ。また同議長は、FRBの中期的なインフレ目標を一時的に引き上げる可能性にも触れている。

将来、公共・民間部門の債券が大量に償還されることと、私自身が抱く、アメリカの政治・司法システムへの不信感を前提とすると、数年にわたりインフレ率を若干高めることは、悪い選択肢の中の最善の選択であり、デフレよりはるかに好ましい。FRBは長期的に独立性を損なう政策を取ることを躊躇しているが、バーナンキ議長が提案した政策の全部とは言わないまでも、その多くを実施するのではないだろうか。

重要なポイントは、金融部門が健全性を取り戻し、経済が穴からゆっくりとはい出してくるまでの何年間か、国民が忍耐強く待つことができるかどうかということだ。政府は支援することはできる。しかしながら、景気を簡単に回復させることができると無責任に吹聴する人間には用心する必要がある。

(週刊東洋経済2010年10月9日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

Kenneth Rogoff
1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名を馳せる。

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