アメリカ経済の低迷がこれからも続く理由--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授
一つ目の問題は、州政府と地方政府を含めた公共部門の債務が、第2次世界大戦後のピークであるGDP(国内総生産)の119%に近づきつつあることだ。一部の人は、将来の債務問題について心配している場合ではないと主張しているが、中期的なリスクを考えるなら、将来の債務問題を無視できない。
減税の二つ目の問題は、短期的にも需要に対して限定的な効果しかないかもしれないことだ。民間部門は減税で得た資金の大半を過剰な借り入れの返済に振り向けるだろう。
さらに公平性の点でも問題がある。アメリカ人のほぼ半数は所得税を払っていない。減税は低所得者層には及ばず、不平等な所得配分をさらに歪めることになる。所得の不平等がさらに悪化することになれば、政治的に深刻な結果をもたらすだろう。保護貿易や社会不安を引き起こすかもしれない。
金融政策発動の余地は十分にある
政府が民間支出の落ち込みを埋めるべきだと考える人々は、成長を促進するプロジェクトはインフラ再建など数多くあると指摘している。財政悪化で苦しんでいる州政府や地方政府に対する資金移転は、教師や消防士、警察官のレイオフを抑制することになるだろうし、100年に1度といわれる危機に対処して、失業保険給付の延長も簡単に実施できる政策だろう。
ただ残念ながら、ケインズ的な需要管理政策は万能薬ではない。減税は長期的には生産性を高めるが、政府部門の拡大は経済的な活力を取り戻す処方箋ではない。市場経済の中で政府が行うべき有益な活動は多くあるが、景気刺激策を求める過度の熱狂は、理性的な議論にとって有益ではない。当然のことながら、財政赤字拡大も問題となる。