過労死した31歳NHK記者の遺族が納得しない理由 「調査報告書は存在しない」の衝撃に遺族は…

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「戦争でも病気でもなく、突然断たれた未和の命。さよならのない別れ。時が経てば経つほどに、なくしたもののあまりの大きさに愕然となります」

「年をとったら感情も薄らぐ、悲しみも和らぐと思っていました。しかし、子を亡くした親に時間薬はない、と実感しております」

「私にはこれといった趣味や特技もなく、結婚して公私ともにますます忙しくなる未和の手伝いをする。やがて生まれてくる孫の面倒を見る。これがたった一つの望みでした。もう、その望みが叶うこともありません」

「未和の過労死を検証番組のような形で伝えてほしい」

娘の突然の死に直面した母の恵美子さんは当時、心を病み入院した。父の守さんは、そのときの妻のことや、家族に打ちよせた過酷な状況について、NHKの管理職たちにこう語りかけた。

父の佐戸守さん(写真:筆者撮影)

「夫婦ともども未和を失った喪失感と悲しみに、毎日のたうち回るような日が続きました。妻は強度のうつ状態に落ちいり、未和の後を追って死ぬことばかり口にし、家族で妻を見張るような毎日でした。

家庭が修羅場でした。子供を家から出して別居することになりました。未和の死によって家族が空中分解して、そのまま家族が崩壊してゆくような、そんな辛い毎日を過ごしていました」

講演の中で守さんは、佐戸記者が亡くなった前後の状況をまとめた資料を配布した。資料の概要は以下の通りだった。

当時、監察医が作成した死体検案書にはこう記されている。

〈 死亡したとき 平成25年7月24日頃 〉

発見が遅れたことなどで亡くなった時間はおろか、日付も正確にはわからない、との判定だった。つまり、24日の午後や夜には、生きて救える状態だったかもしれないというわけだ。職員たちに向かって守さんは、娘をもっと早く発見できたのではないか、と問うた。

「NHKが未和の異変に気付くチャンスは3回ほどあったと思います。なぜ誰も消息を確認しようとしなかったのか。このときの対応をNHKはどう検証したのか、私たちは知りたいと思います」

そして、NHKへの要望についてこう伝えた。

「私たちの願いは放送や番組を通じて未和の過労死を社会のために役立ててほしい、ということです。それが記者としてNHKで働き、死んでいった未和への供養になると考えています」

「NHKでは未和の過労死に関わる内部調査報告書が作成されていません。不祥事とは思っていない、と言われた幹部の方もいます。だから、誰も責任を負わず、誰一人処分も受けずに済んでいるのではないでしょうか」

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