過労死した31歳NHK記者の遺族が納得しない理由 「調査報告書は存在しない」の衝撃に遺族は…

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その後、遺族との質疑応答や職員同士のディスカッションなどはなかった。司会役の放送部長と局長がまとめの話をして、開始から1時間40分ほどで閉会した。

東京五輪問題とのあまりに違う対応

最近、NHKのある対応が広く報じられた。『BS1スペシャル 河瀬直美が見つめた東京五輪』の中で、五輪反対デモに関して不正確なテロップがあった問題だ。NHKは問題発覚から1月ほどで14ページにわたる調査報告書を作成した。職員6名の懲戒処分とあわせてホームページで即日公開した。

政府が推進した国家的行事にまつわる問題への対応の早さとは裏腹に、佐戸記者の過労死問題については、いまだに調査報告書が作られる気配はない。

北朝鮮による拉致問題について解説をする入局5年目の佐戸記者(画像:勉強会で上映された遺族制作の動画より)

佐戸記者の父・守さんは、娘についての調査報告書がなかったという事実を受け止めきれずにいる。尊い人命が失われたことを、軽く扱っているように感じたからだ。

当時の上司らが責任を問われず誰一人処分を受けていないこと、電通の過労死事件については今でも特集を組んでいるのに局内の過労死については検証番組を作らないこと。これらについても納得がいかないままだ。

そして、NHKでの講演を終えてこう話す。

「今回の勉強会を、遺族の憤りをガス抜きするためのものとして扱ってほしくはありません。自分の職場で起きた問題についてきちんと検証しようと、職員の中からさらに声が上がってくることを期待しています」

2月7日、筆者は調査報告書を作る予定の有無やNHK前田会長の認識について、NHKに質問を送った。勉強会の翌日、NHK広報局から以下のような回答があった。

「公共放送を支える大切な仲間を失うようなことは二度と繰り返してはならないことだと考えています。関係者への聞き取りなどを踏まえ、組織として記者の労務管理に不十分なところがあったと認識し、働く人の健康を最優先にして、長時間労働に頼らない組織風土づくりや業務改革に取り組んできました。
 佐戸未和さんの過労死を決して忘れず、職員が健やかにいきいきと活躍できる職場づくりを進めていきます」

 

詳しい経緯を映画とともに紹介した連載:
「未和 NHK記者の死が問いかけるもの」
連載1回目:31歳NHK女性記者「過労死」8年苦しむ遺族の証言
連載2回目:過労死「31歳NHK記者」を追いつめた選挙取材の闇
連載3回目:31歳NHK女性記者が過労死「空白の2日間」の謎
連載4回目:NHK幹部が語った「31歳記者過労死」非公表の裏側
連載5回目:女性記者過労死後、NHKで進む「働き方改革」の真実
尾崎 孝史 映像制作者、写真家

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おざき たかし / Takashi Ozaki

NHKでドキュメンタリー番組の映像制作に携わる。映画『未和 NHK記者の死が問いかけるもの』(Canal+)を監督。

著書に『汐凪を捜して 原発の町 大熊の3・11』(かもがわ出版)。『未和 NHK記者はなぜ過労死したのか』(岩波書店)。写真集『SEALDs untitled stories 未来へつなぐ27の物語』(Canal+)で日隅一雄賞奨励賞、JRP年度賞。

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