保守派の安倍政権が「女性政策」を進められた理由 「政策的要因と政治的要因」に分けて分析した
以上から、これらの政策課題の本質的な急進性(それゆえの導入へのハードル)を認識したうえで、ステークホルダーに交渉できる実行力をもつアクターが官邸・政権内にいたことが重要であったことがわかる。もちろん、安倍自身が社会保障制度にかなり精通していたという点も大きい。とくに同一労働同一賃金は、安倍の問題意識がなければアジェンダ化されなかった。
アジェンダ・コントロール
安倍政権は、女性政策のなかで何を政策課題として取り上げ、何を取り上げないかをかなり戦略的に選択した。
とりわけ党派性が強い争点、すなわち左右の対立が激しい争点については慎重にアジェンダ・コントロールを行った。具体的には選択的夫婦別姓制度の導入や、女性・女系天皇に関する検討である。
夫婦別姓については、安倍総理自身が反対なのだから自民党内で議論しない、というのが暗黙のルールになっていたと野田聖子が述べている。女性・女系天皇についても同様に、安倍政権のもとでは議論自体行わないという選択をした。
このようなアジェンダ・コントロールは、安倍自身の党派性、イデオロギー位置を明確化するように求められるリスクを回避しようという戦略とみることができる。
なぜなら、これらが争点化されて安倍が右寄りの立場を明確にすれば女性活躍との矛盾が可視化されるし、左派に寄りすぎれば右派の離反を招きかねない。要するにダブル・バインド状態に陥る。しかも左派の要求に近い政策選択を行ったとしてもおそらく左派の支持は得られない。
したがって安倍政権にとっては、アジェンダ化を抑制しつつ、現実に困っている当事者の要望に応える施策を右派が容認できる範囲内で実施することが最善となる。その例が婚姻後の通称(旧姓)使用を拡大させる方法である。結果からみれば、アジェンダ化を抑制する官邸の戦略はかなりの程度成功したといえよう。
(文/辻 由希、東海大学教授)
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