保守派の安倍政権が「女性政策」を進められた理由 「政策的要因と政治的要因」に分けて分析した
第3に、安倍政権が主導することにより、右派からの反発を抑制することができた。安倍によると「保守派の安倍政権だからかえって反発を受けずに、いわば保守派の人たちも安心なわけ」で、女性活躍を掲げたことに対する批判はほとんどなかった。
ただし、職業的キャリアを積むだけが女性の生き方ではない、専業主婦の貢献も認めている点はしっかり述べたほうがいいとの助言を受け、演説の中でバランスをとるように心がけた。
コミットメントと実行力のある人材
第4の要因としては人的要因が挙げられる。まず安倍自身が政権発足時から女性の登用について明確な方針を持っていたこと、そして安倍の意図を理解し、具体的な制度に落とし込むことができ、さらにステークホルダーとの交渉力もある人材が官邸と内閣の中に複数存在したことが重要であった。
とくに加藤勝信、塩崎恭久、新原浩朗の3名の役割は大きかった。たとえば官房副長官であった加藤勝信は政府や独立行政法人の女性登用にこだわり、人事検討会議で事務方から提案された管理職の人事案件を何度か突き返した。またWAW! Tokyo(World Assembly for Women in Tokyo)という、世界から女性活躍分野のトップ・リーダーを東京に招いて開催した国際シンポジウムのプログラムづくりにも、加藤は積極的に関わった。
厚労相の塩崎恭久は、先に述べたように公労使合意を覆して女性活躍の数値目標設定を大企業に義務づけ、同一労働同一賃金の考え方を法律に明記させた。
官邸官僚としての新原浩朗の存在も大きかった。働き方改革の内容を取りまとめるとともに、経済団体との交渉も担った。とくに同一労働同一賃金については、これまで公労使の合意形成や制度の検討も進んでいなかったため、新原の働きがなければ短期間での実現は難しかったであろう。新原によると各省庁にも内々に改革を応援してくれる官僚がおり、そういった人々の協力を得ながら制度設計を行ったという。
先に述べたように塩崎と加藤・新原の間で見解の相違があったが、そのこと自体はこの3名が同一労働同一賃金のもつインパクトを理解して本気で関わったことの証左ともいえる。経団連を説得できる落としどころについて見解の相違はあったものの、少なくとも形式だけ整えればいいという考えではなかった。やる気がなければそもそも政治的資源をこれらの政策課題に注ぐ必要はなく、ほかのアクター(経団連・連合等)に責任を転嫁すればよかったからだ。