やるべきことをやっている会社が少なく、イメージで語られている部分が大きいようです。確かに相当な力をかけて採用活動を行って、ようやく新しい人を採用できるという時代ですが、経営的視点で捉えれば、伝統工芸の世界では、求人や採用活動を戦略的に行うことに対する理解は低い可能性があります。その視点を必要としているという意味で、アトキンソンさんのようなまったく異業種の経営者が必要とされているのが、伝統工芸の世界なのかもしれません。
日本は経営者が問題
アトキンソンさんは経営改革を進めるだけでなく、今まで手抜きによって迷惑をかけてしまった神社や寺院に、無償で塗り直しをお願いして回りました。神社によっては、10回以上行っても担当者に会ってさえもらえなかったところがあったと言います。
「朝9時から夕方5時まで外でずっと立って待っていたこともあります。当たり前に手抜きがあって品質面で迷惑をかけたから、会ってもらえなかったのです。でも、会社の信頼を取り戻すために絶対に直したいという思いでずっと立っていました。最後はそこまでやろうとするなら任せるよと、神社の方に言ってもらい、工事ができるようになりました。そういう気持ちは、職人たちにも伝わります。うちの社長が10回以上行って、ようやく工事をさせてもらえた。僕たちはすばらしい仕事をやるしかない、と職人たちは言ってくれました。いちばん大切なのは、誠意なのだと思います」
このように、経営者のアクション次第で変わるのが現場です。経営者の誠意や気持ちは確実に浸透していきます。どんな経営改革をしても、結局、その気持ちが伝わらなければ、ただの数字の帳尻合わせになってしまうのです。
アトキンソンさんの現場改革も、経営者として伝統工芸を守っていくという厳しい姿勢が、単純な利益を超えたところにあったからこそ、理解されたのでしょう。そうした伝統工芸に対する理解があるからこそ、その価値を後世に残していくために、厳しいビジネス的視点が必要とされているのです。
「結局はビジネスです。在庫管理する、納期を守る、仕様を守る、商品の品質を守る、営業もする。そういった、やるべきことをやっていない。きちんとやれば、利益はちゃんと出ます。そのためには、経営者が変わらないといけない。日本の現場の人たちは世界的に見て、本当にレベルが高いと思います。経営者が誠意を見せて仕事をすれば、皆、働いてくれます」
伝統工芸に限らず、どんな商品やサービスでも、ビジネス的視点は欠かせません。伝統工芸でも本気で社会に良さを認知してもらうためには、ただ作る、ではなく、やるべきことをやらないといけません。もっと良いものを、適切な作り方で、適切な伝え方で。そうすれば、結果は後から付いてきます。
それを実現していく時に先頭に立つべきは経営者です。日本の現場力は優れていますが、その現場力を生かすも殺すも、経営者次第なのです。
マザーハウスでは本連載のテーマに合わせてマザーハウスカレッジという、みなさんで議論する場を設けています。詳しくはこちらをご参照ください。
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