ここに、伝統工芸のお客様とはいったい誰なのか?という問いが生まれます。アトキンソンさんが言うとおり、もし伝統工芸とは現代社会で否定された技術であるとするならば、そこには一般のお客様はほとんどいません。
一般のお客様不在で、技術を残すことが目的化された場合、お客様は技術自体=職人であるという矛盾をはらむことになるのです。国の補助金などで保護・支援されている場合にはなおさらです。
そして、一度保護されることが決まってしまえば、一般のお客様がいないため、然るべき評価をされない、だから努力しなくなってしまう可能性があるのです。いずれにしても、何らかの評価軸を持たなければ、現場から努力するインセンティブが奪われてしまうことになります。
「若い後継者がいない」は本当か?
アトキンソンさんが経営者として小西美術工芸に来た際に、最初に改革したのは、現場の責任者を年配の職人から若い職人へと変えたことです。
「年配の職人には親方を外れてもらい、工房に行ってもらいました。漆塗の現場は外仕事なので体力が重要ということもあります。やはり年配の職人は力が衰えている。人によっては情熱も冷めていますので、仕事の質が下がる傾向もあります。だから、40代の職人に現場の責任者になってもらいました。すると、同じ人が作ったものかと驚くくらい、品質が変わったのです」
また、全体の4割を占めていた非正規雇用の職人を、全員正社員に変えました。さらに、若い人に責任を持たせ、現場で働く職人さんの給与を少しずつ上げていきました。すると、手抜きが減って品質が上がっただけでなく、利益も増えたのです。きちんと現場での経営改革を進め、現場が出している付加価値に合わせて評価を行うだけで、設備投資や研修、若い人を雇うのに必要な、まっとうな利益を出るようになったのです。
この流れを10年、20年と継続していくためには、若い人を採用し、技術を継承していくことが必要になりますが、伝統工芸の世界で最も挙げられる問題点は、若い後継者がいないことです。しかし、これについてもアトキンソンさんは、経営的な問題ではあるが、実際に起きていることは違うと指摘します。
「伝統工芸に興味を持つ若い後継者がいない、というのは幻想です。それは自分の立場を強くしようとしている年配の人が言っている言葉だと思います。やりたい若い人はいるのですが、予算が増えない中、寿命も延びて、現役が強いので、なかなか席が空かない。それと、業界として然るべき採用活動をしていない。この業界で幅広く、工夫して、採用求人を出しているのは私たちの会社だけだと思います。求人を出すと若い人の応募はかなりありますよ。それが事実なのです。後継者がいないのは本人たちの問題も大きいのではないでしょうか?」
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