アルコール依存の夫に耐えられず妻が「したこと」 それでも夫を見放さなかった、その理由とは…

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「上司や両親、友人たちには『別れればいいじゃん』と言われていました。でも、断酒会で聞いた『みんな一緒』の言葉に居心地の良さを感じました。いろいろな回復のあり方があると知りましたし、自分自身も共依存だと気づいたんです」

しかし、すぐに行動を改めることはできなかった。アルコールチェッカーを使っては、夫の飲酒を責めたり、夫の1日のスケジュールをリカさんが管理したりした。夫にはアルバイトに行かせ、職場で夫が問題を起こすたびに、頭を下げた。

夫もリカさんに言われ、断酒会に足を運ぶようになっていたが、変化はなかった。次男とともに外出した夫から「ここがどこかわからない」と電話がかかってきたこともある。電話越しに次男の泣き叫ぶ声が聞こえ、リカさんは何度も警察を呼んだ。

「次男の習い事に迎えに行かず、習い事の先生の自宅前で寝ていたということもありました。習い事の先生が呂律が回らない夫を家まで送り届けたと聞いています」

仲間たちは「底つき」が大事だと話すが…

夜勤明けに、育児を手伝っていた母親から「次男が真っ暗な部屋で、テレビ相手に1人で遊んでいるんだけど、どういうこと?」と電話があり、慌てて帰宅したこともある。次男は「保育園に行こうとしたら、パパが『今日はごめんね』と言って、突然家の中に入っていった。自分の部屋に行ったまま降りてこないから、テレビを見ていた」と説明したという。

「ついに子どもの存在を忘れたのか、と怒りが湧くばかりでした。先ゆく仲間たちは『底つき』が大事だと話していましたが、いつ底をつくの? と思いました。仲間が『20年前は大変だったけど、今は断酒19年です』などと話すたびに、美談に聞こえてきて。断酒会に行くのが苦しくなり、私が行ってはいけない場所だと思うようになったんです」

リカさんの心はボロボロだった。夫の最初の入院から3年後。夫は再びアルコール依存症の専門医療機関に入院した。しかし、退院後も夫の飲酒は止まらなかった。離婚するか否かで揉め、離婚届に記入もしたが、最終的に「もう飲まないでね。約束だよ」と仲直りしてしまった。その翌日には夫は泥酔していた。

それから1年後の2020年。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、断酒会の例会に参加できなくなった。吐き出す場所がなくなったリカさんが追い込まれていくなか、夫が家出し、3日帰ってこなかった。パニックに陥ったリカさんは、インターネットで見つけたSNSのアルコール依存症家族グループに思いのままを書き込んだ。

リカさんの書き込みを見た全国の仲間たちから「夫は死なないよ。あの人たちは生きたい人たちだから」などの返信が寄せられ、救われた。グループを通じて知ったオンライン例会に参加してみると、リカさんと同じ状況の仲間が全国各地から集まっていた。

「『今日も隣で飲んでいる』『暴力をふるわれている』『ふらふら出ていった』など、全国に、私と同じように現在進行形で闘っている仲間がいました。同じような仲間に出会えたことで救われたんです」

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