「FRBは株価を支えてくれる」と考えてはいけない インフレ対策に追われるアメリカの「因果応報」

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今のアメリカ経済はちょっと「できすぎ」の数字が並んでいて、今後はさすがに減速するだろうし、年後半には物価が落ち着くという見方もできる。CPIの上昇が始まったのは昨年4月の4.2%以降のこと。今年4月になると「前年比」の効果が剥落するから、それ以降は上昇率が小さく見える、というテクニカルな要素も考慮したいところだ。

庶民が感じる物価は「月々の家賃」や「ガソリン代」

日本経済新聞の2月3日付「経済教室」では、伊藤隆敏コロンビア大学教授が「『引き締め遅れ』指摘当たらず」との論考を寄稿している。

要約すると、CPIの上昇率はインフレ目標2%を大きく超えていて、「金融緩和は長すぎた」とみられている。しかし、FRBが重視するのはCPIではなくてPCE(個人消費支出)である。正確に言うと「コアPCEデフレーター(価格変動が大きい食品とエネルギーを除いた指標)」で、2%のインフレ目標もCPIではなくてこちらを基準としている。

そして同教授は「確かにPCEレベルで見ると2021年12月時点でまだ2%ラインに届いておらず、これからの引き締めでも手遅れではない。……年前半に2~3回利上げしてその後は様子を見るのが適当ではないか」と結論づけている。今は「タカ派」の声が大きくなっているけれども、次第に「ハト派」が盛り返す可能性も十分にある、というのである。

いや、ホント。そうなってくれれば誠にありがたい。しかし、PCEは金融政策のプロが使う物差しであって、普通の消費者は「コア指数」や「デフレーター」を感知できない。

むしろ月々の家賃やガソリン代といった個々の請求書を、自分のお財布と相談しながら物価を感じるものだ。政治の世界でインフレが語られるようになると、どうしてもCPIが重視されてしまう。とくに11月に中間選挙を抱えている年においては、そっちに目が向くのは自然な勢いではないだろうか。

筆者はむしろ、金融政策よりも財政政策にインフレの原因があったのではないかと考えている。ほぼ1年前、当欄で以下のようなことを書いている(「ばらまきバイデン政権の裏で起きる意外なこと」、2021年3月13日配信)。

バイデン政権は「2021年アメリカン・レスキュー・プラン」(ARP法)を成立させた。政権発足後の「初白星」であったが、アメリカ経済がすでに成長軌道に乗っているところへ、GDP比9%に当たる1.9兆ドルの真水注入は景気の過熱を招くのではないか。実際にローレンス・サマーズ元財務長官が「大き過ぎる」とワシントンポスト紙に寄稿したところ、お仲間から「お前が言うか?」と猛反発を食らった……。
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