「にほん昔話」から幸せの秘訣を見いだせる理由 人間の弱さや嫌な部分をあるがままに肯定する
『まんが日本昔ばなし』のエンディングテーマを思い出してください。「にんげんっていいな」というタイトルのあの歌は、実は動物たちの目線から見た人間たちを描いたものです。では動物たちはどこを見て「にんげんっていいな」と思っているのか? それは「ごはん」や「おふろ」、「ふとんで眠る」ことをいいなと羨んでいるのです。
『まんが日本昔ばなし』には、食べ物に関係する話も非常に多く登場しています。
『あにょどんのデコンじる』のように、「働いて空腹ならなんでもうまい!」という筋ともいえないお話も残っているくらいです。
その意味で、ごはん、お風呂、布団。このシンプルな3要素は日本人にとっての「ゼロ」とも言えるウェルビーイングの原型といってもいいかもしれません。
「上昇志向」そのものがバイアスの結果?
とはいえ、もちろん「ごはん、お風呂、布団」という生理的欲求のみで生きていけるほど、今の時代は単純ではありません。それでもあえてこの原則に立ち戻ったのは、「夢や目標を持ち、志をもっと高く!」という上昇志向の発想自体が、すでにある種のバイアスがかかった考え方であると気づくきっかけにもなるからです。
今よりもっと良い人生があるはずだ。そうした思考は確かに前へと進む足がかりにはなりますが、前や上ばかりを見ているとすぐ目の前、今日一日のことを人間はおろそかにしてしまいがちです。やりたいことが見えなくてもいい。今日という日を味わって過ごし、いつでもゼロに立ち戻っていける自分を積み重ねていく日々にも、十分に価値があるということを心に留めておくとよいのではないでしょうか。
再び昔話に戻りましょう。平凡な日常が続いていくゼロ地点は、馴染み深く安心できる場所です。けれどもほんの少しだけ、何かが起きる未来への期待が欲しい。そんな心理に応える装置としての側面も、昔話にはあったのでしょう。