「自分は幸運」と思う人になぜか好機が巡る理由 思考の悪循環を断ち、「点をつなぐ力」を高める
先進国の豊かな家庭に生まれた子どもと途上国の貧しい家庭に生まれた子では、セレンディピティの初期値に歴然とした差があるのは否定できない。
初期値に大きな差があるのも、また集団の人間関係など構造的制約が大きな壁になることも事実だが(時にはそれがセレンディピティの芽を完全に封じてしまうこともある)、南アフリカの元ドラッグ密売人から世界トップクラスのリーダーまで、幅広い人々が自らセレンディピティを生み出していることが私たちの研究で明らかになっている。
そうした人たちの誰もが、生まれつきほかの人より賢いわけではない。違いは人生への向き合い方にある。人生への向き合い方の違いが、優れた判断を下し、ふつうの人より多くのセレンディピティを経験することを可能にしているのだ。
自らの置かれた状況をどんな枠組みで見るか、とりわけ一見不運な出来事をどう捉えるかはきわめて重要だ。感情的そして認知的にそのためのいい土台をつくる方法はたくさんある。
たとえば瞑想すること、抽象的な試練や不安を具体的な行動計画に転換すること、目の前の状況の危険な要素を抑えつつ、好ましい要素に注目することなどだ。
自らの世界に対する枠組みと、自己実現的予言との深い関わりを示す興味深い実験がある。物事がうまくいくと思っていればうまくいくことが多く、その逆もまたしかりだ。考えていることが「実現」し、語ることが「現実」になる。
自分ではない誰かが、点をつないでくれる
あらゆる状況、とりわけあらゆる会話を、セレンディピティを経験する機会として捉えるには、意識して取り組む必要がある。
たとえば誰かの話を聞くときには、その内容がわずかでも自分の、あるいはほかの誰かの関心と重なっていないか考える。ほかの人のアイデアと「競い合う」のではなく、それを発展させようとすれば、自分や周囲のために点と点をつなぐ能力が鍛えられる。
シャー・ワズムンド・ムベの例を見てみよう。事業家として成功し、ベストセラーも出版している。貧しい家庭で育ち、LSE在学中はマクドナルドで生活費を稼いだ。そんななか雑誌のコンテストで優勝し、イギリスのボクシング世界チャンピオン、クリス・ユーバンクにインタビューする機会を得た。
インタビューで2人はすっかり意気投合し、驚いたことにユーバンクはワズムンドに自分のPR担当の仕事をオファーした。
ワズムンドはそれを受け、ボクシングのPRの経験などゼロであったにもかかわらず、すばらしい成功を収めた。その後は独立してロンドンでPR会社を立ち上げ、ダイソンの掃除機の発売などさまざまなプロジェクトを手がけた。
私は研究を通じて、多くの成功者がこのようなセレンディピティを経験していることを学んできた。何らかの目的を持ってある場所へ出かけていくが(ムベの場合は記事執筆のためにボクサーをインタビューすること)、予想外の展開にもオープンだ。
セレンディピティが起こるのは、たいていこのような状況だ。そしてたいてい私たちのために点と点とをつないでくれるのは、ほかの誰かである。
ただ自分が何を求めているのか何となくでもわかっているほうが、点はつながりやすい。私たちの研究では、成功している個人や組織には、軸となるような壮大な野心、強い意欲、信念、あるいは「指針となる考え方」がある。「北極星」と呼んでもいいだろう。
置かれた状況のなかで意識的あるいは無意識的に指針にするような点、原則、あるいは理念である。それがなければ漂流するか、停滞するしかない。
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