陽一さんの場合は、仕事の愚痴を言うと黙って聞いて「そうだよね」と受け止めたうえで、「オレもこういうことがあるよ」と自分の事例も出してくれるという。共感を基盤にして話せるので心地良く、周囲の人にも気が遣える男性だ。彼は時々、会社の上司も店に連れて来るが、その上司も彼のことを大いに買っていた。
バツ1のお相手をどう説得するか?
そのときに付き合っていた恋人とはますます疎遠になっていた京子さんは、陽一さんに心引かれ始める。しかし、2年前に離婚を経験した陽一さんは再婚には慎重になっているようだ。どう攻略するべきか。京子さんは「得意技」を繰り出すことにした。お酒を飲んでいてどちらからともなくいい感じになる、作戦だ。
「立ち飲みバーの常連客仲間で音楽サークルを作ったのです。彼も私もメンバーで、みんなで旅行に行った。夜は当然、宴会です。大いに飲みながら彼と話していて、『いいなと思っているんだよ』みたいなことを言ったら、彼も同じような気持ちを伝えてくれました。でも、酔っぱい同士の楽しいおしゃべりだから完全に本気にしたわけじゃありません」
旅行から帰って来て数日後、陽一さんが一世一代の男気を発揮してくれた。京子さんを呼び出して、「こないだのことをウヤムヤにしたくない。彼と別れて僕と付き合ってほしい」と真顔で告白したのだ。
それからはまさにとんとん拍子で話が進み、翌2012年の春には結婚し、さらに翌年には息子が生まれた。
「彼は前の嫁と5年間結婚していたけれど、最後のほうは仲が悪くなっていたみたい。子どもがいなかったことは私には幸いでした。彼の親は前の嫁のことは嫌いだったらしくて、私のことは最初から歓迎してくれましたよ」
ここで京子さんは「政治家みたいな」前彼の話に戻り、「あんな人となぜ付き合っていたのかわからない」と繰り返す。京子さんの話を聞きながら、僕は違う感想を持った。
京子さんも陽一さんもそれぞれ「前の人」がいたからこそ、救いを求めて立ち飲みバーに通い詰めるようになり、「前の人」とは違う個性を持った異性に自然と引かれたのだと思う。
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