戦後の静岡で多くの「冤罪」が発生したのはなぜか 強引な尋問「袴田事件は起こるべくして起きた」

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何よりも正義感と博愛主義。政治家としては、文部大臣や衆議院議長などを務め、弁護士としては、二俣事件のように、史上初めて死刑判決を受けた被告人に無罪判決を勝ち取るという快挙を成し遂げたり、極東国際軍事裁判(東京裁判)では東条英機元首相の弁護人を務めたりと、多くの業績を残しています。

選挙中もほとんど選挙運動をしないにもかかわらず、衆議院選挙に14回も当選しました。地元で人望があったんでしょうね。

紅林刑事の退職後も起きた冤罪事件

――後書きで「静岡という狭いエリアでどうして冤罪が続いたのか、という素朴な疑問を自分なりに解いてみたい」と書いておられます。確かに幸浦事件から始まって、二俣事件、その後も小島事件、島田事件、袴田事件と紅林刑事の在職中だけでなく、退職した後も重大な冤罪事件が続いています。何が原因でしょうか。

紅林氏の薫陶を受けた刑事が残っていて、冤罪を生み出すシステムが代々受け継がれていたことが大きいでしょうね。紅林氏の下で捜査をしていた刑事が生き残っていて、袴田事件の捜査もやっているわけですからね。

実際、その後の警察内部向け雑誌に、現役の捜査幹部が「新刑訴法実施以来、我々の行う捜査はややもすると、推理捜査をおろそかにし、現場鑑識によって得る有形証拠に頼る弊が生じているのではなかろうか」などと、見込み捜査の重要性を訴える文章を書いたりしているのです。

袴田事件でも、犯行時の着衣とされるものが、発生から1年以上後になって、みそタンクの中から見つかったというのは明らかに怪しいですよね。推理が大事で、物的証拠は後からなんとでもできるという思想が脈々と受け継がれているように思えます。

――作品の最後に、二俣事件の捜査に加わった元刑事が、少年の無罪判決確定後も含めて7~8年もの間、真犯人とみて監視を続けていた人物がいたというエピソードが紹介されています。他の元刑事が別の真犯人を名指ししているなかで、このエピソードをあえて挿入されたのは、どのような思いからでしょうか。

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警察としては、この「真犯人」がまた何か事件でも起こして逮捕されて、「二俣事件も俺がやった」などと言い出すのではないかということを恐れていたのではないかと思います。そんなことになれば、二俣事件の犯人は少年だと言っていた警察の権威がガタ落ちになってしまいます。無罪判決が確定しても少年が犯人だと思っている人はいましたからね。

それと、この地域の一部の人は、刑事がこの「真犯人」を監視していることを知っていました。当然、本人もわかっているでしょう。それによって、彼に対し「お前を監視しているから、下手なことをするなよ」と威圧する意味もあったと思います。昔の警察は、そのようなこともしていたようです。

(ライター・山口栄二)

【安東能明(あんどう・よしあき)】
1956年生まれ。明治大学政経学部卒。浜松市役所勤務の傍ら、1994年『死が舞い降りた』で第7回日本推理サスペンス大賞を受賞し創作活動に入る。2000年『鬼子母神』で第1回ホラーサスペンス大賞特別賞、2010年『随監』で第63回日本推理作家協会賞・短編部門を受賞。著書に『出署せず』『聖域捜査』など。

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