年内に脱原発達成のドイツがEUで孤立し始めた訳 エネルギー価格高騰に加え、外交でも苦しい立場

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理由はほかにもある。マクロン氏は演説の中で、「天然ガスの価格や電気料金の上昇によりフランス国民の生活は大きな影響を受けている。こうした事態には緊急に対処する必要がある」と述べた。

さらに「国民がもしも、適切なレベルのエネルギー料金を支払い、外国から輸入するエネルギーへの依存を下げたいのであれば、われわれは省エネを続けるだけでなく、国内で低炭素エネルギー源の建設に向けた投資を行わねばならない」と指摘し、エネルギー自給の重要性に触れた。

結果として「フランスのエネルギー自給を保証するとともに国内の電力供給を確保し、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するため、国内での原子炉建設を再開し再生可能エネルギーの開発を継続する」と表明した。EUタクソノミーのグリーンリストに原子力と天然ガスがリストアップされれば、原発への資金調達が容易になる。

原発廃止を掲げるドイツ、オーストリア、ルクセンブルクなどは、タクソノミーに両エネルギーを含めることに反対しているが、フランス、フィンランド、チェコなど原発依存の高い国の支持がはるかに上回っているため、「多勢に無勢だ」と公共放送のフランス2は報じている。ドイツは四面楚歌の状態に陥り、ショルツ中道左派新政権には暗雲が垂れ込めている。

不可解に映るドイツの行動

COP26で明確になったことは、待ったなしの気候変動対策として参加する197カ国・地域は「グラスゴー気候協定」を採択し、世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5度に抑える努力を追求し、石炭火力発電を「段階的に削減する」などの具体的表現を盛り込んだ協定で合意した。つまり、石炭火力発電施設の閉鎖を急ぐことが最優先であるという認識で参加国は合意した。

COP26は、過去に定めた目標が罰則もなく口約束で責任を伴わないことを問題視し、地球温暖化を抑える至上命題に対して、現実的にできることから実行する姿勢を鮮明にした。結果として石炭火力発電の完全削減を急ぐことで合意し、石炭発電依存度の高い中国の時間稼ぎを許さないよう圧力を加えることにもつながった。

ところが、脱炭素化で世界に模範を示してきた工業国ドイツの行動は不可解に映る。化石エネルギーからの排出をできるだけ早く削減しなければならないが、それに取って代わる風力や太陽光発電などの再生可能エネルギーでは、ドイツ国内の電力需要を十分に満たせない。にもかかわらず、ドイツは石炭火力発電の停止より先に、CO2排出の少ない原子力発電を停止しようとしているからだ。

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