年内に脱原発達成のドイツがEUで孤立し始めた訳 エネルギー価格高騰に加え、外交でも苦しい立場

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アメリカのウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は「太陽光・風力発電政策に翻弄される状態を自らつくり出してしまったドイツは現在、電力供給維持のためロシア産天然ガスへの依存度を強めつつある。これがロシアのウクライナ攻勢に対し、ドイツの反応が鈍いことの背景にある。同盟諸国の反対にもかかわらず、ドイツはロシアからのガス輸送パイプライン「ノルドストリーム2」計画を断固として支持しており、EUの対ロシア外交を阻害している」と指摘した。

アメリカや北大西洋条約機構(NATO)が、ロシアの軍事侵攻の脅威にさらされるウクライナへの軍事支援を表明する中、ドイツは頑なに支援を拒否している。原発廃止を急ぐドイツはつなぎとなるエネルギー源の天然ガス確保を最優先に考え、ロシアとの対立を避けようとしている。WSJは「ドイツは(原発ゼロという)自国の自己破壊的政策を欧州大陸のほかの諸国に押しつけるべきではない」と強く主張している。

16年間のメルケル政権で最重視された中国との経済関係構築を急ぐあまり、中国に弱腰だったドイツは、対ロシアでも原発ゼロ政策が足かせになり、歯切れが悪いようだ。コロナ禍後の景気浮揚にエネルギー需要は確実に高まるとの見方が強まる中、エネルギー価格高騰は避けて通れない現実といえる。それでも石炭より先に原発を廃止するというのは、順番を間違えているといえるのかもしれない。

求められる説得力のある政策

天候に左右されやすい再生可能エネルギーは電力の安定供給を保証するとはいえないことが指摘されている。2020年、再生可能エネルギーはドイツの電力消費量の45%以上を占め、初めて石炭を抜き、最大の貢献者になった。単純に計算すれば、今年中に原発ゼロになり、石炭発電を据え置けば、再生エネを56%に引き上げるか、天然ガスを増やすしかない。

フランスのような原発推進派は、原発関連事業が多くの雇用も産んでおり、海外にも原発を輸出している。政治的にも現実的にも原発ゼロはほど遠い。さらに東欧諸国は電源構成の主力が石炭火力発電に依存しており、EU加盟国として脱炭素社会への移行が避けられないとしても、原子力やロシアからの天然ガスまで奪われれば、経済は立ち行かなくなる。

ドイツが原発ゼロの気炎を吐いても、EUの現実はドイツに引きずられる状況にはない。日本も気候変動対策への具体的な道筋にEUの葛藤は参考になるかもしれない。観念的な温暖化対策より、現実を見据えた説得力のある具体的政策が求められているといえそうだ。

安部 雅延 国際ジャーナリスト(フランス在住)

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あべ まさのぶ / Masanobu Abe

パリを拠点にする国際ジャーナリスト。取材国は30か国を超える。日本で編集者、記者を経て渡仏。創立時の仏レンヌ大学大学院日仏経営センター顧問・講師。レンヌ国際ビジネススクールの講師を長年務め、異文化理解を講じる。日産、NECなど日系200社以上でグローバル人材育成を担当。

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