「大御所芸人の番組降板」が相次いでいる事情 上沼恵美子、立川志の輔の人気番組も終了

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そのことを象徴しているのが、昨年の大晦日の『NHK紅白歌合戦』が過去最低の視聴率を記録したことだ。出場歌手のほとんどが若者向けのメンバーになっていたのがその一因だろう。伝統ある『紅白』ですらコア世代を狙うようになっている。

また、大晦日の『紅白』の裏番組の中では、日本テレビで長年人気だった『笑ってはいけない』が放送されなかった影響もあって、テレビ朝日の『ザワつく!大晦日 一茂良純ちさ子の会』が民放1位の視聴率を獲得した。この番組はもともと年配層に人気があるため、『紅白』を見限った高齢の視聴者の一部が流れたのだろう。

なぜ大御所芸人の番組終了が続くのか?

そんな中で、もっと上の世代の視聴者を主な支持層とする大御所芸人が、今までよりも必要とされなくなってきている。ギャラは高いし、「コア」には刺さっていない。それが、テレビ局側が彼らをリストラせざるを得なかった最大の理由である。

もちろん、事情はそう単純ではない。大物の番組を打ち切るというのは簡単なことではない。局と事務所の関係性の問題もあるし、タレント本人の意向もかかわってくる。

また、大御所芸人は長くテレビに出ていて、ほとんどは還暦を過ぎている。本人たちが体力的にも精神的にも限界を感じていて、自ら身を引いたり、終了を提案されて受け入れる、ということもあるのだろう。

一般企業であれば定年退職する年齢にさしかかっていても、テレビタレントはなかなか自分から退いたりはしない。それが人気商売の特殊なところだ。だが、芸能の仕事も普通の仕事と同じだと考えれば、一定の年齢にさしかかったところで仕事に区切りをつけるというのは不思議なことではない。

たとえば、桂文枝は『新婚さんいらっしゃい!』で、ゲストの一般人カップルから衝撃的な話を聞いたときに、椅子から転げ落ちるパフォーマンスを演じている。これは普通に見ている分には笑えるのだが、文枝が今後、体力的にどんどん衰えていって「足腰は大丈夫かな?」などと心配されるようになったら、そんなことはもうできなくなるだろう。芸人は心配されたら終わりなのだ。

大御所芸人の降板というのも、決して後ろ向きのものばかりではない。『上沼恵美子のおしゃべりクッキング』の終了に関して、上沼は自身のラジオ番組で「よくぞ27年も使っていただいたな」とスタッフに対する感謝の言葉を述べていた。また、彼女はこれを機にYouTubeでの活動も新たに始めた。この機会にテレビの仕事をセーブして、自分のペースでできる新たな活動に力を入れるつもりなのだろう。

一方、『新・情報7daysニュースキャスター』を降板したたけしも、小説執筆や映画制作などの創作活動に専念するために仕事を減らすことにしたと語っていた。長く活躍してきた大御所芸人が、人生の貴重な残り時間を有効に使うために、自分らしい生き方を選んでいる。それが番組の降板や終了という形で表れているだけだとも言える。

いわば、大御所芸人の番組が終わっていく背景にあるのは、彼らの芸能人としての人生の「終活」である。それはひょっとすると、高齢者向けメディアとしての地上波テレビの「終活」でもあるのかもしれない。

(文中敬称略)

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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