30歳過ぎても「べったり母子」に抱く父親の大不安 父親はどのように子育てに関わればいいのか

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そこで父親はいったん、これまでの親子関係を振り返ってみたという。

「大学生の頃には誰もが友だちづきあいを深めますよね。でも娘たちは私たちと出かけていました。悩みでも何でも、母親に相談していました。当時は、それをほほ笑ましく思っていましたが、それがどうやらまずかったのかもしれないと思い始めました。

そこで、自分は娘たちとできるだけ距離を取ることにしたんですが、妻は納得しなかった。

そして娘たちは30代になり、いまだにどちらも恋愛には縁がありません。そして実家暮らしのまま、休日には相変わらず妻と一緒にショッピングやコンサートに行ったりしています。いくら妻に注意しても、妻は子離れする気がさらさらない。このままでは、娘たちは生涯自立できないのではないかと心配でたまりません」

「家族だけ」が子どもの自立を阻害する

この家族の問題点は、家庭における父性機能の欠如である。本来なら自分の淋しさなど堪え、親としての役割を自覚しつつ、成長する子どもから距離を取っていくことが、親のあるべき姿なのだ。

この父親は、途中でそのことに気づいたわけだが、時すでに遅すぎた感がある。対して、母親はいまだに子離れをしておらず、する意思もないようだ。

子育てのゴールは、子どもたちが自分たち親の元から巣立って自活できるようにすること、友人や配偶者など家庭外の同世代の人たちと心から結びつくことができるように促すことである。

この父親は、思春期から青年期にかけて子どもが親子関係中心の世界から友だち関係中心の世界へと移行できるように、そして母子の間に距離を生み出すように、切断機能を発揮する必要があった。

さらに言えば、「まずい」と気づいた瞬間から、本気で妻に軌道修正を求めるべきだった。母子密着を三十数年も続けてきた母親は、ちょっと言われたくらいで行動を改めたりはしないだろう。そこを何とかしなければならない。

母親には、わが子の将来のためと覚悟を決めて、何としてでも行動を変えてもらわなければならない。そのためには、子どもに依存せずにいられるように夫婦関係を立て直す必要もあるだろう。

イクメンブームが過熱する中で、私が抱く違和感は、彼らが子どもを鍛える父性機能をあまり発揮しないことにある。わが子が幼児になっても、相変わらずやさしく包みこむばかりの父親が目立つように思う。

いずれ力強く社会に出て行けるように、また社会に出てからどんな困難な状況に陥っても前向きに生きていけるように、心を鍛えつつ育てる。そして、やがて親の保護なしでも自力でやっていくように促す。それが子育てのゴールなのだ。

子どもの誕生から3年間はイクメンの比重が大きくても構わないが、その後は父性機能を発揮する父親になることを私はアドバイスしたい。わが子の成長に合わせて、自らも進化する、という心構えが必要だ。何でもくみ取り、わかってあげて、許してあげる母性機能を発揮するだけでなく、時には「絶対にダメだ」と言って動かない、「壁」のような存在になる必要がある。

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