30歳過ぎても「べったり母子」に抱く父親の大不安 父親はどのように子育てに関わればいいのか

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3歳といえば幼稚園入園が視野に入り、保育園児でも「お兄さん、お姉さん」になる時期だ。子どもの欲求充足をサポートしながらも、将来の社会適応を見据えたサポートを始めていく必要がある。しつけは3歳からなどと言われるのもそのためだが、それ以前でもがまんさせる必要がある場面はある。2歳になる頃から少しずつ父性機能を意識するようにしたい。

従来の発達心理学では、子どもは思春期になると親の価値観に反発し、自己主張をして反抗しながら自己を確立していくとみなされていた。ところが、思春期になっても親子べったりで、“友だち親子”などと呼ばれる母子が目立つ時代になってきた。いわゆる母子密着である。前述の事例はその典型的なものだろう。その密着に父親が気づき、うまく軌道修正をしなければならなかった。

子育ての本来の目的は、いつまでも子どもを保護空間に囲い込むことではない。子どもは親より一世代後を自分の力で生き抜いていかねばならないのである。そこのところを勘違いしないようにしたい。

子どもが3歳になる頃から、親は母性機能中心のサポートから母性機能に父性機能を織りまぜたサポートに切り替えていく。ただし現実には、その転換がうまく行っていない家庭が多く、父性機能の低下がますます進んでいる。父性など発揮せず、子どもと友だちのように群れ親しんでいたほうが、親自身も楽に違いない。でも、それでは子育てとは言えない。

父親が厳しいほど「失敗から学ぼう」という傾向

私が2015年に行った大学生253名を対象とした調査では、父親が厳しいほど「有能になりたいという思い」や「失敗から学ぼうという気持ち」が強い傾向がみられた。また、母親が厳しいほど「やる気」も「向上心」も強く、「目標を達成したいという気持ち」も強い傾向がみられた。

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心理学の研究でも、子どもの言いなりにならず、きちんとしつける父親が子どもの発達に好ましい影響を与えるなど、父親のしつけが子どもの社会性の発達を促すことが実証されている。

子どもの自由を尊重するというのは、社会性を身につけないまま野放しにするということであり、それはけっして子どものためにはならない。

子どもの将来を考えたら、子どもを甘やかし自由にさせるのではなく、親が考える「こうあるべきだ」という基準にのっとって、子どもに「こうあるべき」ことがらを教えていく必要がある。

そのようにして社会性を注入していくことを、心理学では「社会化」という。その意味では、ものわかりのよい親では、十分に社会化機能を発揮していけない。

もし厳しさへの耐性が子どもに欠如していれば、社会に出てからそれが子ども本人を苦しめることになるのだから。

榎本 博明 心理学博士

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えのもと ひろあき

1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、 東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授等を経て、現在はMP人間科学研究所 代表を務める。『ほめると子どもはダメになる』『伸びる子どもは○○がすごい』『自己肯定感という呪縛』など著書多数。

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