春日井製菓の牛乳飴「女王のミルク」開発秘話 41%配合の生クリームが鍋で焦げて「失敗22回」

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「何か新しいことをしようとすると、必ずお金はかかります。お金のことを気にするあまり何もできないとか、失敗したら責められるいう社内の空気を取り払うのが私の役目だと思っています。チームのメンバーには、とにかく結果を出そうと話しました。結果は成功しても、失敗しても出ます。何もしなければ何も出ませんから」(鈴木さん)

高級なアイスクリームを買ってきて味の組み合わせを研究したり、それぞれ産地の異なる牛乳を飲み比べたり、試食をするたびに新たな発見があった。例えば、牧草を食べている牛とトウモロコシを与えている牛とでは牛乳や生クリームにしたときに味に違いが出ることもわかった。

生クリームを41%配合した前代未聞のミルクキャンディー

一般的にキャンディーの主原料は水飴や砂糖であり、これらにどんな香料や酸味料を加えるか、いわば、味の足し算によって味が決まる。最上級の乳製品の試食を繰り返しているうちに、シンプルさがいちばんおいしいことにたどり着いた。そして、素材のおいしさをそのままキャンディーにすることができたら……と考えるようになった。

「生クリームをふんだんに使ったケーキがおいしいように、ミルクキャンディーに生クリームをたっぷり使ったらまずくなるはずがありません。生クリームの味そのものを楽しめるように、可能な限り余分なものを入れないように、引き算で味を作ろうと試みました」(水上さん)

生クリームの量は「ミルクの国」(左)の11倍(写真・春日井製菓)

使用する生クリームは、何十種類と試食した中から、北海道産のものに決めた。フレッシュな口当たりとほんのりとした乳臭さがあり、キャンディーに向いていると考えたのだ。しかも、生クリームの量は『ミルクの国』の11倍となる41%を配合。香料も着色料も不使用。こうして、前代未聞の生クリームを主原料としたミルクキャンディーの開発がはじまったのだが、完成するまでの道のりは平坦なものではなく、困難を極めた。

「従来の製造法でキャンディーを作ろうとすると、どうしても生クリームが焦げついてしまうのです。一応、キャンディーの形にはなるものの、焦げた部分が混ざり合ったり、茶褐色になったりして、とても商品として出せるものではありませんでした」(大原さん)

また、人が入れるような大きな鍋に焦げた生クリームがびっしりと付いて、その除去作業は工場で働くスタッフにとって重労働となる。さらに、メンテナンス中は工場の設備が使えなくなるため、途方もない時間とお金もかかる。

通常、キャンディーの試作は多くて3回。3回目までは工場のスタッフから「大変だったね」の言葉で終わるが、失敗を繰り返す中で「本当に商品化できるの?」と不安が募りだした。失敗したのは22回。不安になる気持ちも理解できる。

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