女王シロアリの最期はあまりにあっけなくむごい 君臨しても「卵を産めなくなったらサヨウナラ」

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1匹の女王アリは、1日に数百個もの卵を、1年中休むことなく毎日産むのである。単純計算でも、年間何万匹もの働きアリを産むことになる。こうして、女王から生まれた働きアリたちによって、巨大な王国が作られているのである。

シロアリのように役割分担を決めた社会を作り出す生物は、「真社会性生物」と呼ばれている。働きアリは、巣のために働くという役割のみが、兵隊アリは巣を守るという役割のみが、そして、女王アリは卵を産むという役割のみが与えられているのである。

1匹の生物が、巣を守り、餌を獲り、子孫も残すというすべてをこなすのは大変である。巣を守れなくても死んでしまうし、餌を獲れなくても死んでしまう。もちろん、子孫を残せなければ、自らの血を絶やしてしまうことになる。そこで、シロアリなど社会性を持つ生き物は、大きな集団を作り、役割分担をして集団を守るという戦略を発達させたのである。個人事業主ではなく、組織化された大企業を目指したのである。

なぜ子孫を残さない働きアリは巣のために尽くせるのか

しかし、不思議なことがある。

すべての生き物にとって、子孫を残し、自らの遺伝子を次の世代につなぐことは重要である。それなのに、どうして働きアリたちは、自らは子孫を残さずに、巣のために尽くすという使命に従っているのだろうか。

女王アリから生まれた働きアリたちは、すべて血を分けた、自らと同じ遺伝子を持つ兄弟姉妹である。そして、その兄弟姉妹たちによって巨大な王国が築かれている。つまり、兄弟姉妹で構成された巣を守ることは、自らの遺伝子を共有するものを守ることになる。やがて、自分たちの兄弟姉妹から新しい王や女王が誕生すれば、生まれた子どもたちは、甥(おい)っ子や姪(めい)っ子にあたる。つまり、自らの遺伝子を引き継ぐ甥や姪が次々に生まれていくことになるのだ。何も自分で子孫を残さなければ遺伝子を残せないわけではない。兄弟姉妹を守ることが、結果的には自らの遺伝子を残すことになるのである。そのため、働きアリたちは、黙々と働き続けるのだ。

シロアリは、一般に、家屋の基礎部分などの腐った木の中に巣を作り、その木材を餌にする。そのためシロアリの働きアリたちは、腐った木の中に築かれた王国の中で安心して仕事ができる。

しかし、この生活には1つだけ、問題がある。

木の中に棲(す)みながらその木を食べているのだから、部屋の壁や天井を食べ尽くせば、棲む部屋がなくなってしまうのだ。そのため、シロアリは、今の住まいとは別の箇所の木材を食べて新しい部屋を作りながら、古い部屋は食べて片づけ、新居に移動しなければならない。

働きアリは自分の足で簡単に移動できる。しかし、女王アリはそうはいかない。巨大な腹部を持つ女王アリは、自力では移動できないのだ。女王アリは、働きアリたちに運んでもらわなければならないのである。

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