日本の問題をはき違えている「財務省」の大きな罪

債務残高だけに集中するのは大きな間違いだ

これはどのようにして起こったのか。プリンストン大学経済学部のマーク・バンバ教授と、コロンビア大学経済学部のデビッド・ワインスタイン教授による指摘どおり、高齢者の数が増えたにもかかわらず、財務省は高齢者1人当たりの支出を大幅に削減することを推し進めた。結果、高齢者1人当たりの社会保障費は、1996年のピーク時には192万円だったのが、2019年には149万円と約20%減少している。

【追記:13時52分】初出時に翻訳上の間違いがあったため、表記の通り訂正いたします。

医療費はどうか。1999年のピーク時には高齢者1人当たり52万円だったのが、2019年には44万円とこちらも、15%削減された。

これらの削減は、65歳以上の1人暮らしの女性の貧困率が50%近くにまで上昇した理由の1つだ。また、2018年には、主に3000円相当の万引きの疑いで4万5000人の高齢者が逮捕されており(1989年は7000人だった)、多くは収監されないが、刑務所に入る人の3分の1以上は60歳以上が占めている(1960年には全体の5%だった)。多くは1年ほど刑務所で過ごした後、解放されるが、その後同じ罪で再び刑務所に戻る。刑務所には温かいご飯、ベッド、医療があって、仲間がいるからだ。

教育や保育への支出が削減される

こうした削減が続くと、GDPに占める高齢者向け支出の割合が実際には減少する可能性がある。それは、高齢者の増加が横ばいになっているからだ。

1994年から2019年にかけて、高齢者の数は1760万人から3550万人へと倍増している。が、公式予測では、今後は非常に緩やかなペースで増加する見通しで、2030年には3720万人にとどまり、2043年には3940万人でピークに達した後、再び減少に転じるという。さらに、バンバ教授とワインスタイン教授が指摘するように、高齢者の増加は若年層の大幅な減少によって相殺され、これは教育や保育への支出減につながる。

だが、こうした事実があってもなお、財務省は同じ主張を繰り返している。財務省は2021年度版『日本の財政関係資料』の中で、IMFの調査結果を援用しているが、その内容は次のようなものだった。

「マクロ財政見通しに高齢化に伴う歳出増を織り込み、継続的に評価することは重要。スタッフによるシナリオは、高齢化に伴う歳出増を賄うためには、消費税率を段階的に2030年までに15%、2050年までに20%に引き上げる必要があると示唆(OECD平均の19%と比較して)。(中略)年金、医療、介護支出の主たる変化がなければ、財政の持続可能性は手の届かないものであり続ける可能性」

次ページこうした状況忍耐する財務省の「答え」
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