日本の問題をはき違えている「財務省」の大きな罪 債務残高だけに集中するのは大きな間違いだ

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もちろん、日本の慢性的な赤字は悪影響を及ぼす。しかし、その所産は日本国債の暴落ではなく、経済のゆっくりとした腐食が続くことである。診断が違えば、処方箋も大きく異なってくる。

第1に、財政赤字そのものは日本経済の不調の原因ではなく、むしろ民間需要の弱さを示す症状である。そのため、第一に優先すべきは、実質賃金の低迷や企業の資金繰りなど、需要低迷の根本原因を解決することだ。

第2に、課税ベースを拡大するために、税や支出などの政策の足並みを成長とそろえる必要がある。国によっては消費税課税が適切だが、日本はそのような国ではない。なぜなら、ただでさえ弱い消費者の需要をさらに弱めてしまうからだ。

ほかにより適した税目がある。支出面では、河川敷を舗装したり、ゾンビ企業に信用保証を提供したりすることは、成長を阻害するだけでなく、税金が無駄遣いされるだけだと国民にあらゆる増税に対する不信感を抱かせる。

超金利が長引く意味

最後に、慢性的な赤字は、日銀に超低金利政策を維持するよう、さらなる圧力をかける。今は必要があるが、際限なく長引かせれば経済基盤を弱体化させる。例えば現在、銀行融資の36%が0.5%未満、17%が0.25%未満の金利である。このような無視できるほどわずかな金利が、ゾンビ企業の事業を継続し、他の健全な企業に打撃を与え、結果としてGDP成長率の足を引っ張ることになるのだ。

かつて、高齢者における収入の大部分は預金金利が占めていた。今は違う。1000万円を1~2年の定期預金に預けると、利息はわずか1000円で、チェーン店でカプチーノを2杯飲むのがやっとだ。退職者の家計支出の40%が貯蓄の取り崩しによるものだというのもうなずける。多くの人は、寿命を迎える前に貯金を使い果たしてしまうだろう。

成長率の向上だけで政府債務の対GDP比が安定するわけではないが、問題ははるかに管理しやすくなる。一方で、構造改革を伴わない増税や歳出削減は、成長を妨げることになるだけた。

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。

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