“土着”から脱却せよ! アサヒビールが挑む海外派遣制度
9月上旬。アサヒビール本社の一角にある会議室は熱気に包まれていた。「目標はタイ人になることです」。ある社員がこう“宣言”すると、周りからは笑いと感嘆の声が上がる--。
会議室に集まった10人は、この9月から中国やタイ、オーストラリアなど7カ国・地域に派遣され、6カ月間を過ごす社員たち。アサヒが今年4月に開始した海外派遣制度「グローバル・チャレンジャーズ・プログラム」の第一期生だ。出発を目前に控えたこの日は、「武者修行研修」と銘打ち、それぞれが派遣先での具体的な目標を発表。「すぐにアポが取れる人脈を100人構築する」「将来的に会社が出資や提携できるようなパートナーや案件を探す」と、それぞれが緊張した面持ちで語った(写真は研修風景)。
グローバル・チャレンジャーズ・プログラムは、4月に就任した泉谷直木社長の「アサヒの哲学を持ち、海外で活躍できる人材を育成すべし」との考えから始まった。将来的に国際業務を担う人材を育成するために、同社が海外拠点を持つ国・地域に派遣する制度で、就任直後から社内公募を開始。そこで集まった122人の中から、書類選考や国内研修などを経て最終的に10人が選ばれた。
派遣先では野放し、”サムスン流”導入
参加者たちは、派遣後3カ月間、語学研修に参加する傍ら、現地でのビジネス概要を勉強。さらに、各拠点の人脈ネットワークなどを生かしながら現地での市場調査などを行い、最終的にはその地域におけるアサヒの成長戦略を立案し、経営陣に提言することになっている。研修終了後は海外事業に携わる部門へ積極的に登用する計画だ。制度は今年を皮切りに毎年実施し、2012年までに約30人を派遣する、としている。
派遣中は、基本的に人脈構築から市場調査まですべて参加者が単独で行う。「ある程度のめんどうはみるけれど、途中からはほったらかし。それぞれの地域で“野に放つ”ことを考えている」と人事部の樋口祐司氏は話す。
ただ与えられた職務をこなすだけでなく、異文化の中で自ら必要な知識を身につけ、経験を積んでいく--。プログラムの狙いはそこにある。参考にしたのは韓国・サムスン電子の地域専門制度だ。実際に人事部社員がサムスンに出向いて教えを受けた。アサヒが目指すのは、単なる海外経験者ではなく、海外業務で即戦力となる人材の育成だ。