地方都市再生論 暮らし続けるために 藤波匠著 ~成功例もモデルにならず「自画像」が重要と説く

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地方都市再生論 暮らし続けるために 藤波匠著 ~成功例もモデルにならず「自画像」が重要と説く

評者 渡辺利夫 拓殖大学学長

 奉職する大学のプロモーションのために、関東圏の地方都市で講演などをする機会がとみに増えている。土曜日の午後が多い。ホコテンの土曜日、しばらく前であれば、若者や子供が心浮き立たせて商店街を行き来していたはずだが、人影はまばら。シャッターが落ちている店舗が目につく。通行人も見れば高齢者ばかりである。

凝集力の強い東京近郊の地方都市に共通の風景である。人口減少と高齢化は地方都市から購買力を奪い、これが雇用を減少させて、行きどころを失わせている。いったいどうしてこんなことになってしまったのか。地方都市の再活性化ははたして可能なのかと著者は問う。

1戸当たりの乗用車が2台にも近いような時代となって、人々は郊外に戸建て住宅を求め、中心地の商店主さえ郊外からの通勤者となっている。郊外の大型店舗の出現により中心市街地で買い物をする必要もなくなった。コンパクトシティが高唱される一方で、郊外へと広がる商圏の拡大で事態は逆の方向へと動いている。地方都市の郊外化は公共投資の分散化を招き、集中的投資によって都市の活性化を引き起こす資金的余裕をも消散させている。

中心市街地活性化基本計画も、地域に根ざした計画とはなっていない。「地域それぞれの個性を生かした地域像を設定し、それに向けたオリジナル性の高い取り組み」に地方都市自身がめざめぬ以上、活性化など画餅だというのが著者の見立てである。キーワードは「差別化」にありと心し、活性化を奏功させた事例が紹介される。

しかし成功例も「モデル」ではない。個性的な文化的伝統を顧みて、地方都市住民が独自の「自画像」を描くことがまずは何より重要だというのが、本書最大のメッセージである。

ふじなみ・たくみ
日本総合研究所主任研究員。主な研究領域は地域政策や環境政策。東京農工大学農学研究科環境保護学専攻修士課程修了。東芝、さくら総合研究所、日本総合研究所調査部、山梨総合研究所などを経て、2008年から現職。

日本経済新聞出版社 2100円 319ページ

  

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