「STAP問題」は、起こるべくして起きた 『噓と絶望の生命科学』を書いた榎木英介氏に聞く(上)

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――博士号を表すPh.D.とは、「人類の英知を知る人」のことであると聞きました。これまでサイエンス界を支えてきたのはPh.Dを持つ研究者同士の「信用」ではないかと思います。これがSTAP問題によって崩壊した。

これをたいへん心配しています。海外の研究機関から、「日本のPh.Dは信用できない」「今後、早稲田大学のPh.D.は研究室に採用しない」という声が出ていると聞いています。留学生を増やそうと言っているときに日本の学生が留学できない。また日本の学位への信用が地に落ちた状態では海外からの留学生の獲得もままならない。STAP問題が、国益を大きく毀損していることは間違いがありません。

解決されないポスドク問題

――ポスドクの問題は深刻ですね。

博士課程に進む人数は増えていますが、大学の教員や任期付きではない研究職のポストは増えていない。1996年に施行された第1次科学技術基本計画のなかで、いわゆる「ポスドク1万人計画」がありました。ポスドクとは、ポストドクトラルフェロー、つまり博士号を持つ研究員です。大学教員などの任期のない職に就いていない研究員のことで、研究のスピードアップには欠かせないとされ期待もされました。しかし、現在1万6000人いるポスドクの多くは、低収入でせいぜい4~5年の任期の職に甘んじるか、職にも就けずさまよっている状況です。年収300万円以下の人も多い。

これは日本的な就労システムの影響もあると思います。そもそも、企業には新卒一括採用、年功序列、というしくみがありますが、博士号を取得して数年ポスドクを経験するとおおむね30歳台中盤になっているため、新入社員であってもそれなりに遇さなければなりません。さらに「博士はプライドが高いうえ頭が固い、専門にこだわりが強く扱いにくい」というイメージが先行しています。これが企業への就職の障壁になっています。

――一般企業を取材すると、よほどの研究開発型企業でない限りは、実際にそのような話をききます。上司が博士号を持っていないとバカにして言うことを聞いてくれない、狭い領域の専門にしか関心がなく、専門から少しでもはずれたことを頼むとやめてしまう、などのエピソードもあります。

単純に相性の問題もあるかもしれませんが、たしかに博士は長年研究室にこもっていたためアカデミアの外の世界を知らないことも多い。一般社会の常識を身につけるのに時間がかかるなどの問題はあります。米国でさえ企業に入って馴染むのに2~3年はかかると言います。しかし、研究に対する集中力や、サイエンスに対する幅広い理解力など、よい面もたくさんあります。個人的に高い能力を持っている人が多いので、おそらくアカデミア以外の世界に進んでいたとしても活躍できたであろう人材です。こういうリソースを生かさないのは国家にとっても損失ではないでしょうか。

――どのようにすれば活用できるでしょうか。

そのためにはマッチングが重要になります。2008年から文部科学省の「ポストドクターキャリア開発事業」の助成を受けて、旧帝大などいくつかの大学でキャリアアドバイス、企業との交流会、マッチング、インターンシップなどの事業が行われています。北海道大学などではうまくいっているようですし、大阪府立大学や岐阜大学など、大学として積極的に取り組んでいることをアピールすることで博士課程への進学率が改善していると聞きます。ただ、旧帝大の多くは組織が大きすぎて動きが鈍い面はあるようです。とにかく地道にやるしか方法はないですね。

※続きは10月6日に掲載します。

小長 洋子 東洋経済 記者

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こなが ようこ / Yoko Konaga

バイオベンチャー・製薬担当。再生医療、受動喫煙問題にも関心。「バイオベンチャー列伝」シリーズ(週刊東洋経済eビジネス新書No.112、139、171、212)執筆。

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