「STAP問題」は、起こるべくして起きた 『噓と絶望の生命科学』を書いた榎木英介氏に聞く(上)

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私が東京大学の浅島誠研究室に入った1995年4月、『浅島研究室における哲学』13か条の書かれた紙が全員に配られました。この哲学は1977年に作られ、40年近く配られてきました。「この内容が徹底されていればSTAPのような問題は起きなかった」と浅島先生はおっしゃいます。

主な内容は、学問に対するフィロソフィを持ち、研究室内では相互に自由で建設的な議論をすること、コンプライアンスを遵守しミスコンダクト(不正)のないようにすること、確かな技術をまず身につけること・・・・・・などで、今回問題として浮かび上がってきたことが網羅されている。しかしこういった基本的なことでさえ、きちんと実践している研究室はそれほど多くありません。 

過当競争が博士未満の人材を生み出した

――なぜそんなことになってしまったのでしょうか。

榎木英介(えのき・えいすけ)●病理・細胞診専門医。1971年神奈川県生まれ。1995年東京大学理学部生物学科動物学専攻卒、同大学院博士課程中退 後、神戸大学医学部医学科に学士入学。2004年医師免許取得、2006年博士(医学)。近畿大学医学部病理学教室講師。科学技術政策や、ポスドク問題に 関心を持ち、科学コミュニケーションに関する活動を行う。著書に『博士漂流時代』(DISCOVERサイエンス、科学ジャーナリスト賞2011受賞)、 『医者ムラの真実』(ディスカヴァー携書)、『嘘と絶望の生命科学』(文春新書)など。

大きな問題は競争です。中でも研究費の獲得競争は熾烈です。科研費などの競争的資金が増え、実績、つまり論文をたくさん書かなければ資金を得られない。生命科学のような実験科学では、たくさん実験をこなさないと論文が書けないので手足が欲しい。博士課程に進んだ学生を、教育もそこそこに実働部隊として使うということになっています。

加えて、文部科学省からは3年で卒業させることが望ましいと言う指針が出されています。義務ではないのですが、大学側も過剰適応してしまって、とにかく3年で卒業させようとする。そのため、大学院生はとにかく論文を出さなければならない。ライバルもいるし、早く論文を出さなければ学振や科研費など公的研究費も取れない。自己流でも何とかしてしまう優秀な人もいますが、博士号を取った助教クラスでも、研究者としてのトレーニングをされておらず、成果だけは教授に奪われる、といった例が後を絶ちません。博士の称号は持っていても博士未満の人材を生み出しているのです。

――こういったことは日本だけの問題なのでしょうか。

競争の厳しさに関しては世界共通だと思います。ただ、アメリカの大学では一定の基準に達しなければ、何年経っても博士号を授与せず、退学する学生も多くいます。試験、審査も厳しく、基準以下の人には与えない。質のコントロールが徹底しています。

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