中国景気はスローダウンしても「メルトダウン」はない
ただ、中国は「モノバンク」。政府系銀行が多数存在しており事実上、人民銀行が唯一の銀行として政府系銀行を束ねている側面があります。銀行は株式を発行していても民営化されているわけではない。つまり、中国の金融システムは一つの銀行によって成り立っていると考えてもいいのではないでしょうか。人民銀行は2兆5000億ドル程度の資産を有しており、資金面で余裕があります。このため、たとえ、不良債権化しても以前と同様、資本増強という形で支援することが可能です。実際に、金融システムの問題が顕在化することはないでしょう。
同国の国内総生産(GDP)に対する家計部門の債務の比率は24%にすぎません。これに対して、英国は100%を上回り、米国もほぼ100%近い水準。中国の家計部門の借り入れ依存度は相対的に低く、スパイラルのような形で経済が悪化するとは考え難いといえそうです。
−−人民元の切り上げに対する中国の姿勢は。
主要国の景気に不透明感が漂う現状で切り上げを行えば、同国の貿易収支は悪化するでしょう。ただちに切り上げに踏み切ることはないでしょう。ただ、世界経済の情勢が好転してくれば、切り上げへと傾く可能性はあります。中国は伝統的に極端なことはやらず、少しずつ変化させることを好みます。為替レートを誘導するにしても一気に変えていくといった行動には出ないでしょう。
「新興国発」世界危機再燃の可能性は低い
−−ブラジルの経済や金融政策の先行きについてはどう見ていますか。
瞬間的に景気後退局面入りしましたが、その後の回復は早く、今年は6.5%の成長を見込んでいます。これは歴史的にも高い水準です。特に良好な労働環境が個人消費拡大に寄与しています。加えて、「信用」が消費を押し上げているのではなくむしろ、実質賃金の上昇がドライバーになっている面もあります。その結果、インフレが起きつつあり、金融当局は引き締め策へと傾き始めました。7月の利上げ幅は市場予想(0.75%)を下回る0.5%にとどまりましたが、引き締めは今後も続くでしょう。
ブラジルの場合、GDPに占める輸出の割合は決して高くありません。われわれはこれを「クローズド・エコノミー」と称しています。インドも同じ。「クローズド・エコノミー」の国々は世界経済が停滞期を迎えても、輸出主導型の国に比べてそのインパクトは軽微です。ブラジルの株式市場では輸出セクターの比率が高く、「資源国輸出型国家」のように見えますが、実際にはそうではありません。
ブラジル経済にとって気掛かりな要因は2つ。1つはインフレです。同国はインフレに対し極めて敏感で、少しでもその兆候が出れば引き締め、逆にインフレ観測が後退すれば緩めるといったスタンスを継続するでしょう。もう1つは世界経済の行方。世界的な景気情勢に応じて金融政策の面でも機動的に対処すると見ています。足元はインフレ期待が若干薄らいでいるため、7月は0.5%の利上げで抑えたということでしょう。