中国景気はスローダウンしても「メルトダウン」はない
米国景気とともに最近、多くの市場関係者の関心を集めているのが中国経済の動向だ。急ブレーキがかかる懸念はないのか。同国を含む新興国経済の見通しなどをHSBCグローバル・アセット・マネジメントのマクロ・投資戦略グローバル責任者、フィリップ・プール氏に聞いた。
−−7月に発表された中国の景気指標の多くは「減速」を示唆しています。それでも「軟着陸(ソフト・ランディング)」は可能でしょうか?
確かに、成長率は落ちていますが、持続できない可能性があるほどの高いレベルから減速している感が強く、政府側が「落とそうとしている」と受け止めるのが妥当です。今年後半(7~12月)は前期比年率で9%程度の伸びは達成できると見ています。「スローダウン(減速)」ではあっても、「メルトダウン(溶解)」には至らないでしょう。「ソフト・ランディング」という言葉は的を射ています。
現在の中国の潜在成長率は9%前後。政府としては9~9.5%の成長を目指すのが正しい選択でしょう。通年では成長率が10%にタッチする可能性はありますが、同水準を超えると過熱感が強まる懸念もあります。長期にわたって10%超えの状態を容認することはないと見ています。
2009年の財政赤字の対GDP比率は約2.7%。10年も同程度が予想されるため、財政面ではなんら問題がありません。政府債務の対GDP比率も18%。同債務のレベルも低く今後、一段の財政出動が必要になったとしても、同比率が「危険水域」に達することはないでしょう。(分母の)成長自体が早いため、同比率が高まらないという側面もあります。
インフレについては、警戒しなければならないギリギリの線で収まっているのが現状。金融当局は食品価格の動向などを注視しています。ロシアの輸出停止措置などをきっかけに小麦相場が上昇。つれて、肉の価格も値上がりしました。中国経済は大きな影響を受けるだけに、神経質にならざるを得ないのです。
人民銀行はこれまで預金準備率を引き上げていますが、利上げには踏み切っていません。インフレ懸念がさらに強まれば、利上げを実施するでしょう。現段階ではドル買い・人民元売りの通貨介入で膨らんだ流動性をオペなどで吸収し、インフレを抑えています。
−−中国銀行業監督管理委員会が銀行に対して、簿外の貸出債権をオンバランス化し、不良債権に引き当てを積むよう求めました。
銀行に関しては数年前に不良債権の問題が発生し、金融当局が資本増強に踏み切った経緯があります。現在は地方政府に対する多額の融資の不良資産化が懸念されています。