失われた10年再来を回避するための方策--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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 短期的には金融政策を発動して日本型デフレ阻止のために戦うことは大切だが、金融政策は債務に対する所得の比率を引き下げることで債務問題を悪化させるだけだ。むしろ、2~3年間、穏やかなインフレを引き起こすほうがはるかに好ましい。そうすれば、政治、法、規制の各システムが麻痺して、必要な債務減額ができないような状況でも、インフレによって債務を圧縮することができる。

信用市場が機能しないため、もっと量的な緩和が必要となるかもしれない。財政政策はすでにフルに発動されており、政府の債務水準をさらに悪化させないためにも、これから数年は緩やかな緊縮財政が必要となるだろう。ほとんど宗教的な確信から、「さらなるケインズ的な財政刺激策が不可欠であり、財政赤字は無視すべき」だと信じている人は、パニック状態に陥っているかのように見える。

ほかには、独占禁止法の強化や税制の合理化、単純化などの生産性向上政策を通して欧米経済のダイナミズムを維持することも重要だ。生産性の趨勢を推定するのは非常に難しい。なぜなら生産性は社会的、経済的、政治的な力の複雑な相互作用によって決定されるからである。かつてノーベル経済学賞受賞者のロバート・ソロー教授とポール・クルーグマン教授は、コンピュータと技術の普及は実質的な成長を高めるかどうかという疑問を提起した。

そして最後に、政策当局は、欧米が失われた10年を回避できるかどうかは、単に短期的な需要刺激策ではなく、生産面での活力を維持する能力があるかどうかに懸かっていることを、心に刻むべきである。

(週刊東洋経済2010年9月4日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

Kenneth Rogoff
1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名を馳せる。
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