戦傷者は「想定外」という、自衛隊の平和ボケ 「国内では銃創や火傷は負わない」との前提

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 防衛省が公開している予算資料では単に「個人携行救急品」と紹介されているが、このセットにはPKOなどを想定した国際用(国外用)と通常用(国内用)との二種類が存在する。以下にその構成品を紹介する。

国際用・・・救急品袋、救急品袋(砂漠迷彩)、救急包帯、止血帯、人工呼吸用シート、手袋、ハサミ、止血剤、チェストシール
 
通常用・・・救急品袋、救急品袋(白色)、救急包帯、止血帯

 

国内用は国外用に比べて、構成品がかなり省略化された簡易型になっていることがわかるだろう。国内用にはチェストシール、止血剤、人口呼吸シート、手袋、ハサミが入っていない。

デング熱やらマラリア用の薬品や、現地にしか生息しない毒蛇用の血清などであれば国内用の「個人携行救急品」に入っていなくとも不思議はない。だが、チェストシールは深部銃創・切傷に対応し、創傷の救急閉塞に用いるものであり、止血剤は出血を止め、人口呼吸シートは気道の確保。ハサミは火傷に際して被服を切り取るのに必要不可な装備で軍用の個人衛生キットとしては必要不可欠なものばかりだ。応急処置のために必要な止血、呼吸の確保、やけどの処置に必要な最も基本的なアイテムが省略されているのだ。

これでは自衛官は国内では銃創や火傷は負わない、血が出ない、すなわち国内では戦争は起こらない、自衛官は外国で怪我をすると血が出るが、国内の戦闘で怪我をしても血が出ない特異体質だ、と言っているのと同じだ。それとも自衛官の命は紙よりも安いのだろうか。

国内は病院があるから大丈夫?

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見本市に展示された英国製の応急処置キット。こうした装備は、士気を高めるためにも絶対に必要なのだが・・・・

筆者は2013年7月11日、防衛省の陸幕長記者会見で君塚陸幕長(当時)に、なぜこのセットの違いがあるのかとの理由を訪ね、後日陸幕広報室より回答を得た。それによると国内用が簡素化されている理由は以下の通りである。

「国内における隊員負傷後、野戦病院などに後送されるまでに必要な応急処置を、医学的知識がなく、判断力や体力が低下した負傷者自らが実施することを踏まえ、救命上、絶対不可欠なものに限定して選定した」。

対して、「国外用は、国内に比し、後送する病院や医療レベルも不十分である可能性が高いため、各種負傷に際し、自らが措置できるための品目を、国内入れ組に追加して選定した」。

この回答は全く非現実的である。応急処置は必ずしも怪我をした隊員本人が行うわけではない。手を吹き飛ばされたり、意識を失ったりした隊員が自分で応急処置ができるわけがない。仲間同士で互いに処置をすることは自明の理だ。他国の軍隊ではそのような訓練を熱心に行っている。また国内は医療レベルが充分というが、前線、例えば島嶼防衛で想定されている南西諸島の戦場の近くにどこに総合病院があるのだろうか。

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