先の東日本大震災では多くの遺体が、傷むにまかせて安置されていた。もし自衛隊が充分な遺体袋を保有し、それを提供していたらよかったのだが、自衛隊は遺体袋もほとんど保有していなかった。
軍隊は死亡した将兵の遺体を保存するために活性炭や防腐剤などを封入した遺体袋を用意している。これは遺体をできるだけ保存状態をよくして遺族に届けるためと、腐敗した遺体が疫病の原因になることを防ぐためだ。
遺体袋も使用期限があるために一定期間ごとに買い換える必要がある。自衛隊にとってそれは「無駄な費用」と思っていたのだろう。だが、さすがに東日本大震災以後、遺体袋の備蓄は増やされているようだ。
陸自は野戦病院を持っているが、小泉政権時の2003年に制定された有事法ができる以前は、病院法によってこれを実際に使用できなかった。これを使うとモグリの違法病院になるからだ。つまり実戦において野戦病院は使用できなかったのである。この話も多くの国民はもちろん、政治家の多くも未だに知らない。
戦闘服の下着にも課題
アフガンやイラクの戦訓から多くの軍隊では戦闘服や下着にFR(耐火繊維)の導入が始まっている。通常の化繊などが含まれる被服を着たまま火傷を負うと、溶けた繊維が皮膚に付着して皮膚呼吸が困難になり、また被服を除去する際に皮膚まで剥がれて治療が難しくなる。陸自の戦闘服にFR繊維は使用されていない。また官給品の下着の質が悪く、多くの隊員がユニクロのクールマックスやヒートテックなどの下着を私物として使用しているが、これらを着て火傷を負うと繊維が溶けて大変なことになる。そのため、耐火用の下着としてはハイテク繊維ではなく、メリノウールが使われることも多い。当然これらは通常の繊維よりも一桁は高価になる。陸自にとっては不要な支出と映っているのだろう。
米陸軍が戦闘服用に採用したオランダのテンカート社の開発した難燃繊維「ディフェンダーM」の素材には、帝人のアラミド繊維「トワロン」が使用されているが、日本企業が誇る素材技術の恩恵を、日本の自衛隊は享受できていない。
また多くの軍隊ではボディアーマーの股間、腹部側面、下腹部にも防弾板を装備しているが陸自のボディアーマーには装備されていない。これらは2015年度予算で初めて要求されている。他の先進国は1990年代からこのような装備を導入している。この面でも自衛隊は遅れている。
将兵の命、体を守るためには、極めて多額の投資が必要である。だが自衛隊は長年それを怠ってきた。自衛隊の最高指揮官たる安倍首相はこのような、現状を知っているだろうか。恐らく「ご説明」にくる内局官僚も制服組もこのような自衛隊のお寒い実態を最高司令官に説明していないだろう。
戦争をすれば人間が死に、傷付つくのだ。これは古今東西不変の事実だ。現実の戦争はテレビゲームではない。その当たり前のことを安倍首相、そして政治家たちはどれだけ理解しているだろうか。戦争ゲームをするような気分で国防を考えるのは極めて危険である。
自衛隊の衛生改革には防衛省、自衛隊は勿論、むしろ政治家の努力が必要である。かつての有事法制定のような政治的努力無くして改革は実現しない。地道な努力をせずに、オスプレイ、AAV7、グローバル・ホークなどの高価な新兵器を、検証もせずに防衛省に導入を押し付けることは極めて幼児的であるとしか言いようがない。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら