「それでスターになれると思っちゃったんですね。これは先に進んだほうがいいと思いました。今思えば、もうしばらくその事務所にいてもよかったんじゃないかな? とは思うんですけど。事務所を辞めて、文学座の入試試験を受けました」
文学座は1937年に創立された、日本の演劇界の最高峰と言ってもいい劇団だ。
「当時は新劇の東大と言われるくらい試験が厳しかったです。試験の項目は8個くらいありました。800人が受験して、昼30人、夜30人しか受かりませんでした」
23歳の冷蔵庫マンさんは見事文学座の試験に合格し、研究生になることができた。
「それで舞い上がってしまったんですね。周りにはいろいろな人たちがいましたけど、役者の経験者は僕だけでした。それでさらに舞い上がってしまいました。自分は特別だって思い込んでいました」
文学座では1年が終わった段階で、研究生から研修生へ上がる。ただし全員が上がれるわけではなかった。ほとんどの人は、卒業という形で文学座を離れることになる。
冷蔵庫マンさんも、研修生になることはできなかった。
タップダンスで無理をしすぎて足が動かなくなった
「心底ガッカリしました。奈落の底に落ちた感じでした。そしてすごく焦りました。何かしなくちゃいけないと思って、急にタップダンスをはじめました。タップダンスって最初の頃って足に水が溜まったりするんですよ。そうなったら休めばいいんですけど、焦っていたから痛くなっても無理やり続けて……それで足が動かなくなってしまいました」
最初は右膝が痛くなり、それから股関節、くるぶし、と下半身すべての関節がひどく痛むようになった。病院で検査を受けたが、痛みの原因は判明できなかった。
「結局6カ月病院に入院しました。退院後も歩くことができず、じっと自宅で療養をしていました」
3年経ってもまだ足は痛いままだったが、自宅近くのコンビニエンスストアでアルバイトをはじめた。
その後、我孫子(あびこ)にあるNECの会社に派遣社員として入社した。足は相変わらず痛く、毎日苦痛をこらえて会社まで歩いていた。
「柏から我孫子まで1駅、JR常磐線に乗って会社に向かっていたのですが、同じ車内にとても可愛い子が乗っていたんです。その子は毎日同じ電車に乗っていました」
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