暗号資産に熱狂する人が醒める奇怪な騒動の行方 初期投資家にコイン配布されず市場外取引疑惑も

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光が強ければ、その分、影も濃い。NFTアート市場においても、最近は詐欺の報告が相次ぐなど、セキュリティの脆弱性に警鐘を鳴らす専門家もいる。仮想通貨市場となると、さらに多くの問題を抱えている。ハッキングや運営者による持ち逃げ、投資詐欺事件が多発しているのだ。

ある新興の仮想通貨をめぐる騒動もその1つ。そのコインとは、日本有数の電機メーカーの元社長を代表取締役に据え、後にアメリカの大手取引所「コインベース」を筆頭に日本の取引所でも販売されているXだ。

被害にあったと訴えるのは九州に住む50代の男性。虎の子の500万円をICO(イニシャル・コイン・オファリング、新規通貨公開)に投じたが、3年以上が経過してもコインが1枚も手元に届いていないという。

「絶対に上がるからと関係者から勧められて投資したのですが、経営陣にピカピカの経歴を持つ人たちが顔をそろえていたこともあって信頼してしまった。イーサリアムで送ったのですが、円換算したレートは1枚1円で、500万枚が手に入るはずでした。2018年の4月頃だったと思います」

しかし、待てど暮らせどコインは届かない。関係者に聞いても「もう少し待て」の一点張り。そんなICO組を尻目に、仮想通貨のXは海外の取引所に上場し、2021年2月には400円以上の値段をマークする。男性は語る。

「そのとき手元に持っていれば20億円ですし、今の価格でも20円くらいなので1億円近い計算になる。仮にイーサリアムのままだったとしても7倍近くにはなってるんです。近々ICO参加者向けにコインが配布されるとも聞いていますが、本当かどうか……。せめて送ったイーサリアムだけでも返してほしい」

このコインXは、東京都内に本社を置くX株式会社が発行体となっているが、実際に販売しているのは総勢70社ほどの代理店。「代理店ではらちが明かず、X社本体に文句を言ったがダメだった。投機熱に浮かれて、とんでもないものに手を出してしまった」と男性はうなだれる。

市場外で起きた不法行為疑惑

市場で流通しているのに、初期投資家にはコインが配布されない──。そんな不可解な事態に陥っているのだが、取材を進めるうちにより根深い問題に突き当たった。「マーケット価格よりもはるかに安い値段で、市場外で直接販売(相対取引)をしている業者がある」という証言が寄せられたのだ。

匿名を条件に取材に応じた投資家のY氏は、慎重に言葉を選びながら語った。

「今年の5月か6月頃、Xが80円だった頃でしょうか。1枚10円で買えるという話が回ってきました。取引相手はX社とも親しい距離にあるとされる『C』という会社。私はX社のビルの下まで現金を持っていき、1枚10円で数千万円分を購入。その日にウォレットに送ってもらいました」

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