福島2500人調査で判明「ブースター接種」は必要だ 時間が経つほど下がる抗体価、個人差も大きい

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200 AU/mLを下回ると感染リスクが上がると考えたため、7月30日に1回目のコロナワクチンを接種した。9月30日の採血の結果、抗S抗体価は2294 AU/mLまで上昇した。コロナワクチンの効果はしっかりと数値に反映されていた。

以後、日にちの経過によって値は下がり始め、11月3日採血結果は976 AU/mLとなった。そこで、11月5日に2回目のコロナワクチンを打った。グラフの最後の検査日である11月10日採血結果は1946 AU/mLで、再度上昇を確認できた。

抗S抗体は時間が経つにつれて下がることはわかっていたが、ワクチンを接種すれば抗体はしっかりと得られることが、今回の自身の結果をもって明らかになった。抗体価が下がっている方は、ぜひとも早めに3回目の接種をお勧めしたい。

話を追跡調査に戻そう。

多くの人の協力で抗体検査が実施された

本稿では、2500人の採血を行い、抗体価のデータをまとめたと簡単に書いたが、実際のところ、これはとても地道で大変な作業だった。

まず、2500人分の採血に必要な道具一式を用意し、それを各病院やクリニックに届け、東京大学から送られてきた専用スピッツ(試験管)に、参加者に対応したバーコードを貼り、それを参加者一人ひとりとひも付ける。その後、採血で得た2500人分の血液を遠心分離にかけて血漿を取り出し、スピッツに移して冷凍保存する。

福島医大に運ばれた検体は、冷凍便で東大に郵送。2500人分の問診票の記載事項をエクセルに入力し、データベースを作る。東大から返送された3種類の抗体価の結果を参加者に返却し、その値の説明をする。

これらすべてが手間のかかる作業であり、さまざまな方のご協力がなければやり遂げられなかった。

今回の抗体検査では、福島県立医科大学に限らず、さまざまな大学の医学生にも協力いただいた。なかには東京や宮城から新幹線で通ってくれた学生もいて、おかげで2500人分の問診票入力を1カ月弱で終えることができた。

また、2500人にものぼる住民の協力を得られたのは、相馬市保健センターや南相馬市役所、平田村役場、医師会などサポートがあったからにほかならない。このように、たくさんの人々に支えられているからこそ、実施できた調査だ。改めてお礼を述べたい。

ワクチンによる抗体価が日々の経過で減少することが危惧されるなか、新たにオミクロン株が出現し、新型コロナに対する警戒を緩めてはならない状況が続く。

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今回の抗体検査では、2回のワクチン接種でほとんどの人がカットオフ値以上の抗体価が得られたものの、時間の経過につれて下がっていることが示された。9月~10月の時点で、すでにカットオフ値以下になっていた参加者もいた。

一刻も早く3回目の接種を始めなければならない。同プロジェクトではすでに2回目の調査が始まり、参加者2500人の採血が行われている。3回目のワクチン接種後の抗体価の変化などを継続的に観測し、結果を伝えていきたい。

趙 天辰 福島県立医科大学放射線健康管理学講座 研究員兼大学院生

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ちょう てんたつ / Cho Tentatsu

東京外国語大学卒。日本語、中国語、英語、ウルドゥー語、スペイン語を話せる。医療通訳士。国際的な医療問題に取り組み、医療分野の国境をなくしたいと考えている。

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