「ヒグマ駆除で銃の使用禁止」にハンター怒りの声 裁判中に被害が相次ぎ、死者は10人を超える

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現場には高さ約8メートルの土手があり、狩猟の世界でいうバックストップ(弾止め)の役割を果たす。標的がその土手を背にするような位置から銃を撃てば、仮に銃弾がその体を貫通したとしても周辺に危険が及ぶことはない。

クマが立ち上がった瞬間、ライフルを発砲

原告の池上治男さん

そう判断した池上さんは、まさにクマが土手を背にして立ち上がった瞬間、約16メートルの距離からライフル銃を発砲、1発でクマを倒した。同行したもう1人のハンターが至近距離から「止め刺し」の1発を撃ち、駆除は無事に終了。市や警察が一連の駆除行為を問題にすることもなく、地域住民も安堵の声を漏らすことになる。

この駆除行為が突然「事件」となったのは、駆除から2カ月ほどが過ぎたころ。砂川署は鳥獣法違反などの容疑で池上さんを取り調べ、自宅から銃4丁を押収した。

結果として、地元の滝川区検察庁は事件を不起訴処分とするに至ったが、警察が差し押さえた銃は今も池上さんのもとに戻っていない。北海道警察の上申を受けた道公安委員会が、銃所持許可の取り消し処分を決めたためだ。

一方、狩猟免許を扱う北海道の担当部局は、駆除行為に違法性がなかったとして、免許を取り消さないことを決めている。池上さんを「鳥獣被害対策実施隊員」に任命している砂川市も、その後も変わらず隊員の委嘱を続けている。地元検察も駆除行為の違法性を認めなかったのは、すでに述べた通りだ。

駆除の現場には高さ8メートルの土手があり「バックストップ」の役割を果たしていた=砂川市宮城の沢

公安委の処分を不服とした池上さんは2019年6月、同委に対して行政不服審査請求を申し立てる。だがその一方で、当事者である公安委自身による審査には、もとより公平な扱いが期待できず、はたして翌2020年4月に請求棄却が決定した。

これを受けた池上さんは同年5月、所持許可取り消し処分の撤回を求めて裁判を提起するに至った。

本記事の冒頭に伝えた実質勝訴判決により、その主張は提訴から1年半を経てようやく認められることになった。きっかけをつくった駆除行為からは、3年以上が過ぎたことになる。ここまで問題がこじれたのはなぜか。

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