「体感定年51歳」韓国で仕事を辞めた人達のその後 知り合いの会社に再就職、バイト、不動産投資…

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今さらながら、妻から投資の相談を受けたときよく調べもせずに生返事をしていたことが悔やまれると何度も口にしていたが、現在は、一念発起、ソウル市郊外で豚の飼育を行っている。詐欺に遭ったのが豚の飼育に関連する詐欺だったこともあり、飼育せざるをえない側面もあったようだが、何も考えずに黙々と仕事をしていると話していた。

最近、韓国の統計庁は、28歳から働くことを想定すると(兵役義務などを考慮した設定年齢)、韓国では44歳で「黒字人生」のピークとなり、60歳を超えると勤労よりも消費が上回る「赤字人生」に入るというレポートを出した。2010年には39歳が「黒字人生」のピークとなり56歳で「赤字人生」に入ると調査されていたが若干年齢が上がった。これは働き始める年齢が遅くなり、また定年年齢が60歳になったことも関係しているのではないかといわれる。

OECD国家の中で韓国は65歳以上の高齢者の相対的な貧困率がもっとも高い(2018年)。世界でも類を見ないスピードで高齢化が進んでおり、その速度は日本の2倍。

国民年金制度ができたのも1988年と日本よりも20年あまり遅く、支払額が少ないため当然支給額も少なく、日本の2分の1ほどだといわれる。加えて最近の物価高は日本以上なので厚生年金と合わせてもとうてい年金だけでは暮らしていけない。働かざるをえない環境なのだ。

20〜30代も定年後の準備をしている

クォンさんはこんなことを言っていた。

「正直、日本がうらやましいですよ。60歳までは会社が守ってくれて、その後も働けるような環境にあるわけでしょ。韓国は20~30代の声が強くなってきているし、“老兵は去るのみ“という風潮がありますから」

半導体大手のSKハイニックスでは給与に不満を持った入社4年目の社員が同社代表に直接メールを送り、「成果給算出方式と計算法を明らかにしてくれ」と迫り、結局、同社は「成果給の財源を営業利益の10%とする」とした。

今回、話を聞いたのは1960年代生まれの人たちだったが、子女世代の20~30代は「公正さと平等」に敏感な世代といわれ、企業でも彼らの声も大きくなっている。この世代に定年後の準備について尋ねた調査でも、「準備している」という回答は5割以上あった(前出、ジョブコリア調べ)。最近、20~30代で人気なのは株式投資だ。

韓国はこれまですさまじいスピードで経済成長を成し遂げながら、変わることで発展してきた。その代わり古い価値観はどんどん消え去り、かつてのように子どもが親の面倒をみるといった光景は珍しいものになっている。

退職後の人生設計もあと5年後くらいにはまったく違った話が飛び出てくるような気がしている。

菅野 朋子 ノンフィクションライター

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かんの ともこ / Tomoko Kanno

1963年生まれ。中央大学卒業。出版社勤務、『週刊文春』の記者を経て、現在フリー。ソウル在住。主な著書に『好きになってはいけない国』(文藝春秋)、『韓国窃盗ビジネスを追え』(新潮社)がある。

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